白井聡『永続敗戦論』


永続敗戦論――戦後日本の核心 (atプラス叢書04)永続敗戦論――戦後日本の核心 (atプラス叢書04)
(2013/03/08)
白井 聡

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 白井聡著『永続敗戦論――戦後日本の核心』(太田出版/1785円)読了。

 仕事の資料として読んだ。各紙誌絶賛、若手政治学者による話題の日本論である。

 難解な論文かと思いきや、意外なほどわかりやすい本だった。歯切れよいクリアカットな言説に、格調高い文章。日本の支配層の平和ボケと無責任ぶりを批判する筆鋒は鋭く、随所に胸のすくような痛快なフレーズがある。

 書名にいう「永続敗戦」とは何か? 帯の言葉をそのまま引こう。 

「永続敗戦」それは戦後日本のレジームの核心的本質であり、「敗戦の否認」を意味する。国内およびアジアに対しては敗北を否認することによって「神州不滅」の神話を維持しながら、自らを容認し支えてくれる米国に対しては盲従を続ける。敗戦を否認するがゆえに敗北が際限なく続く――それが「永続敗戦」という概念の指し示す構造である。今日、この構造は明らかな破綻に瀕している。



 戦後日本で延々とつづいてきた、「敗戦を否認しているがゆえに、際限のない対米従属を続けなければならず、深い対米従属を続けている限り、敗戦を否認し続けることができる」という倒錯的状況――それを指す概念が「永続敗戦」なのである。
 その「永続敗戦」を「認識の上で終わらせること」を目的に、本書は書かれたという。

 ……というと、「政府が対米従属をつづけるのはケシカラン!」とアジるサヨ臭ふんぷんの本を想像するかもしれないが、そうではない。著者はむしろ、右派からも左派からも一歩距離を置いた視点から、冷徹に状況を鳥瞰している。
 たとえば、終戦後に米国が天皇の退位も求めず訴追もしなかったことについての、次のような記述。

 占領軍の「天皇への敬愛」が単なる打算にすぎないことを理解できないのが戦後日本の保守であり、このことを理解はしても「米国の打算」が国家の当然の行為にすぎないことを理解しないのが戦後日本の左派である。言うなれば、前者は絶対的にナイーヴであり、後者は相対的にナイーヴである。
 ちなみに、天皇の戦争責任をめぐる左右のこうした構図は、憲法第九条に対する見解においては、鏡像反転したかたちで現れる。周知のように、右派は憲法第九条を戦後日本にとっての最大の桎梏とみなし、護憲左派はこれを対日占領政策のうち最も評価すべきものに数える。こと憲法問題にかぎっては、親米右派は大好きなアメリカからの貰い物をひどく嫌っており、反米左派は珍しくこの点だけについてはメイド・イン・USAを愛してやまない。



 本書の「『永続敗戦』という概念によって、日本の現在と近過去をとらえる試み」は十分成功しており、時事的政論として一級の出来である。

 とくに、日本が抱える3つの領土問題(尖閣・竹島・北方領土)についての簡にして要を得た分析は見事。この問題について論じたどの本や記事よりも、私にはわかりやすかった。
 本書を全部読むヒマがないという人には、この部分(第二章第一節「領土問題の本質」)だけでも一読をオススメする。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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