ロイ・バウマイスターほか『WILLPOWER 意志力の科学』


WILLPOWER 意志力の科学WILLPOWER 意志力の科学
(2013/04/22)
ロイ・バウマイスター、ジョン・ティアニー 他

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 ロイ・バウマイスター、ジョン・ティアニー著、渡会圭子訳『WILLPOWER 意志力の科学』(インターシフト/1890円)読了。

 「心理学者として世界で最も研究成果の引用が多く、影響力があるひとりとして知られる」パウマイスター(フロリダ州立大学教授)と、ジャーナリストの共著。
 執筆の役割分担が明確でないが、たぶん、バウマイスターの研究成果をティアニーが取材して一般向けにまとめたのだろう。

 そうした成り立ちの場合、日本なら十中八九バウマイスター1人の著書となり、ティアニーはゴーストライターになる。アメリカの出版界は聞き書きでまとめるライターに日本より敬意を払っており、共著という形をとるケースが多いのだ。

 ま、そんなことはさておき、本書はたいへん面白い本だった。「意志力」という漠としたものの正体に迫る上質の科学ノンフィクションであり、同時に優れた実用書でもあるのだ。
 
 意志力――言いかえれば自己コントロール力は、あらゆる分野において人生を好転させる力となる。学問であれスポーツであれビジネスであれ、意志力が強い人のほうが成功しやすいことはいうまでもない。

 意志力ほど人生に広範な影響を及ぼす力といえば、ほかには知力くらいしかない。
 知力には生まれつきの面が多く、努力によって向上させるのは難しい。だが、意志力は筋肉と同じで努力によって鍛えられる、とバウマイスターは言う。

 本書には、意志力の鍛え方も詳述されている。それも、安手の自己啓発書によくある空疎な精神論やオカルトまがいの説ではない。当代一流の心理学者が、長年の研究のすえに見出した科学的方法なのだ。

 その鍛え方を知るだけでも読む価値のある本だが、意志力の性質をさまざまな角度から浮き彫りにしたほかの章も、じつに面白い。

 本書によれば、「意志力の出所は一つであり、そのエネルギー量には限りがある」という。
 つまり、仕事に使う意志力も雑用に使う意志力も、遊びに使う意志力も同じものだというのだ。雑用や遊びにその日1日分の意志力を費やしてしまえば、仕事に使う意志力はもう残っておらず、ろくな仕事ができない。意志力に「別腹」はないのだ。
 意志力のエネルギーが消耗することを、バウマイスターは「自我消耗(ego depletion)」と名づけた。言い得て妙なネーミングである。

 面白いのは、芸術家にしばしば性的放縦が見られることや、社会的地位の高い人物が脇の甘い性的スキャンダルでしばしば失脚することを、この「自我消耗」で説明しているくだり。

 人は意志力を使い果たすと自制心が薄れ、欲望のままに行動しがちになる。芸術家は創作に意志力のほぼすべてを注ぎ込むから、それ以外の時間は性的誘惑に脆くなりがちだ、という(笑)。

 また、政治家や大企業経営者など社会的地位の高い人物は、日々重大な決定をくり返し下さなければならない。これは非常に意志力を消耗する行為であり、どうしても「決定疲れ」に陥る。彼らがつまらぬ性的スキャンダルで地位を失うのは、まさにこの「決定疲れ」のためだと、著者は言う。

 これは、「英雄色を好む」という俗諺の科学的説明にもなるだろう。
 古今の英雄は、日々の「決定疲れ」から必然的に自制心が薄れ、それゆえ性的放縦に陥りやすかった(少なくともそうした側面があった)のだ。

 ……と、そのようにバウマイスターの研究成果の興味深い部分を取り出し、ティアニーが面白いエピソードを随時加えていくことによって、一級の娯楽読み物にもなっている。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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