西村賢太『一私小説書きの日乗』


一私小説書きの日乗一私小説書きの日乗
(2013/02/27)
西村 賢太

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 西村賢太著『一私小説書きの日乗』(文藝春秋/1523円)読了。

 ウェブ文芸誌「マトグロッソ」に連載された日記の単行本化。私はサイト上でも読んでいたけど、1冊の本として読むとまた違った味わいがある。

 内容は、日記そのもの。エッセイのように一編の作品としてまとめようとする意志は感じられず、食べたものや会った人、読んだ本、書いた原稿などについての日常雑記がつづく。それでも面白く読ませてしまうのは、文才というものだろう。

 本書に記録されているのは、まさに芥川賞受賞後の日々。
 売れない作家であった彼が突如脚光を浴び、殺到する原稿依頼やテレビ出演依頼などを、うれしい悲鳴を上げつつこなしていく様子が綴られている。

 過去の作品群は増刷に次ぐ増刷。著名文化人や芸能人などの知遇も次々に得て、芥川賞受賞作『苦役列車』は映画化される……。というふうに、西村にとっては「我が世の春」ともいうべき“人生最高の一年”が刻みつけられていく。

 昨年は、新潮社からだけで三千八百万円を得ていたことに一驚する(拙著五冊の印税、原稿料の他に、海外版等、同社が窓口となったものすべてを含んで)。(中略)
 一昨年の自分の年収は四百八十万だったが、今回住民税のみでもその三分の二以上の額を別途納める計算に、つい自分でも訳の分からぬバカ笑いを発してしまう。



 ついこの間まで、どこからも雑文一本の依頼も貰えなかった惨めさを、自分は一生忘れない。無能のくせに思い上がった文芸編輯者や、尻馬乗りの、保身に必死なだけの新聞文芸時評子(本来、資質的に文芸とは無縁の、単なる一教職者に過ぎないが)から意図的に排除され、やられっ放しだった無念さを、自分は片時も忘れたことはない。
 あの悔しさを思い出すにつけ、今、彼奴らの必死の排斥も虚しく、自分に多少なりとも仕事が立て込み続けているのは実に痛快。かつ、しみじみ有難いことである。



 このように、赤裸々な「ざまあみやがれ!」的記述が痛快だ。なじみの編集者を些細なことで罵倒したりするあたり、相変わらず「実生活では交友したくない男だ」と感じさせるけれど……。

 また、これは『孤独のグルメ』に近い面白さをもつ日記でもある。
 というのも、西村が日々律儀に記録している食生活の様子(出版社の接待で食べる高級料理から、家で食べるインスタント食品やジャンクフードまで)が、どれも妙にうまそうだからだ。読んでいて腹の減る日記である。

 日記中に頻出する鶯谷の大衆居酒屋「信濃路」(この店は過去の作品でもおなじみ)と早稲田鶴巻町の「砂場」(蕎麦屋らしい)に、行ってみたくなった。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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