北杜夫『見知らぬ国へ』


見知らぬ国へ見知らぬ国へ
(2012/10/22)
北 杜夫

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 北杜夫著『見知らぬ国へ』(新潮社/1575円)読了。

 昨年逝去した北杜夫の、これまで単行本未収録だったエッセイばかりを集めたもの。おそらく、新刊として出る最後のエッセイ集になるだろう。

 収録エッセイのうち最も古いものは、1969年にアポロ11号の打ち上げを間近で見たときの見聞記。
 いちばん最近のものは、2009年に「ほとんど遺稿」との端書つきで送稿されたという、「手塚さんの偉大さ」という一文。手塚治虫との思い出を綴ったもので、「未発表」(雑誌等にこれまで掲載されていない)とクレジットがあるが、私はこれとごく近い北杜夫の文章を読んだ記憶がある。どこで読んだか思い出せないが、よく似た内容のエッセイがあるのだろう。

 エッセイ集としての出来は、あまりよいとは言えない。
 北杜夫のエッセイの真骨頂はやはり「どくとるマンボウ」シリーズの2大傑作『航海記』と『青春記』にあるわけだが、本書はあの2冊のクオリティに遠く及ばない。
 やはり、これまで単行本未収録だったのにはそれなりの理由があるわけで、本書は「落穂拾い」以上のものではないのだ。

 ただ、中にはよいエッセイもある。

 たとえば、ヴィスコンティの『ベニスに死す』を、原作と比べてどこがダメかを厳しく指摘した「『ヴェニスに死す』あれこれ」は、トーマス・マンを敬愛してやまなかった北杜夫にしか書けない鋭い批評となっている(ただし、北は『ベニスに死す』を、マンの映画化のうち最も優れたものとして評価している)。

 親友・辻邦生の逝去に際して追悼文として書かれた「辻さんあれこれ」は、さすがにしんみりとした名文になっている。

 また、最後の章には『北杜夫全集』の月報に寄せられた自作解題エッセイ「創作余話」がまとめられており、これは資料的価値が高い。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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