きたやまおさむ『帰れないヨッパライたちへ』


帰れないヨッパライたちへ―生きるための深層心理学 (NHK出版新書 384)帰れないヨッパライたちへ―生きるための深層心理学 (NHK出版新書 384)
(2012/07/06)
きたやまおさむ

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 今日は、都内某所で打ち合わせが2件。どちらも、来年の仕事をどういう方向にしようかという打ち合わせ。

 基本的には3ヶ月以上先の仕事が見えないフリーランサーゆえ、先々の仕事が決まっていくのはありがたい。一つ予定が埋まるごとに、「これで来年もやっていけそうだ」という安心感が強まるのだ(そのように、つねに先行きの不安を抱えて生きているのがフリーというもの。私はもう長いから慣れてるけど)。


 行き帰りの電車で、きたやまおさむ著『帰れないヨッパライたちへ――生きるための深層心理学』(NHK出版新書/870円)を読了。
 
 きたやまおさむとはもちろん、作詞家・ミュージシャン・精神科医の北山修のこと。一般向けの本を著す際などに、きたやまおさむ名義にしているらしい。

 タイトルは、北山が加藤和彦らと組んでいたザ・フォーク・クルセダーズのミリオンセラー・ヒット「帰って来たヨッパライ」をふまえたもの。
 ……なのだが、「帰って来たヨッパライ」なんていまの若い人は知らないだろうし、多くの人には意味不明のタイトルだよなあ。



 きたやまおさむの本といえば、私は以前『ビートルズ』(講談社現代新書/1987年)に感銘を受けたことがある。これは、私が読んだビートルズ本の中でも五指に入る名著。
 ただ、そのあとで手を伸ばした『人形遊び――複製人形論序説』はなんだかよくわからない内容だったし、精神分析関連の著作はこれまで読んだことがなかった。

 本書は「きたやま深層心理学の集大成にして最適の入門書」なのだと、カバーそでの惹句にはある。
 「きたやま深層心理学の集大成」と言い得るかどうかは私にはわからないが、精神分析入門としては面白く読めた。

 著者は、父・母・子の「三角関係」と嫉妬を軸に精神分析学のエッセンスをわかりやすく伝え、同時に、それを日本人にあてはめた独自の日本文化論を展開する。

 日本文化論としても、また、嫉妬の肯定的側面に光を当てた書としても、傾聴に値する卓見がちりばめられている。たとえば――。

 革命にも破壊的嫉妬が必要です。持たざる者が持てる者に嫉妬することで、それまでの体制を転覆させるわけです。これまでのいろいろな政治的革命は王や王妃に対する嫉妬をはらんいでいたと見ることができます。嫉妬が社会を悪くするかというと、必ずしもそうではなくて、嫉妬こそが改革の原動力となるのです。破壊的嫉妬ではあるけれど、その破壊は「創造的破壊」にもなり得るのです。嫉妬そのものを全否定するのではなく、嫉妬する構造は社会変革にとってもとても大事な心理であることをまず確認する必要があります。



 本書を、岸田秀の『嫉妬の時代』と読み比べてみるのも一興だろう。

 それにしても、精神分析学というのはよくも悪くも非常に「文学的」な学問だなあと、本書を読んで改めて思った(フロイトはもともと作家志望だったそうだ)。たとえば、次のような一節がある。

 自分の人生を物語にして語ることは、精神療法的で、まさに精神分析が「言語的治療」と呼ばれるゆえんだと思います。フロイトはそれを「再構成」と呼びますが、自分の人生を言語的に構成していくと、いろいろな過去の手掛かりを素材にして、自分の人生がどのように、これまで繰り返され、展開されてきたのかを読み取っていくことができるようになります。(中略)
 言語によって物語として自分の人生を紡ぎ出すことができれば、自分の「心の台本」を読むことで人生について洞察を深めたり、深く噛みしめたり、味わったりすることが可能になり、場合によっては、自分の台本を修正して生きることもできます。



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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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