ピアーズ・スティール『ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか』


ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのかヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか
(2012/06/28)
ピアーズ・スティール

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 ピアーズ・スティール著、池村千秋訳『ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか』(阪急コミュニケーションズ/1890円)読了。

 著者はカナダ・カルガリー大学の教授で、先延ばしとモチベーションの研究をライフワークにしてきた人。先延ばしをテーマに博士号をとり、その後も10年以上にわたって先延ばしの研究をつづけてきた斯界の第一人者である。

 本書は、そんな著者がこれまでの研究成果を一般向けにまとめたもの。先延ばしの歴史、先延ばしの原因と類型の分析、先延ばしが経済に与えている負の影響の分析など、興味深い“先延ばし学”が次々と開陳される。

 そのうえで、後半では先延ばしを克服するための13のプランが紹介されている。つまり、本書は先延ばしをテーマにしたサイエンス・ノンフィクションであると同時に、先延ばし克服に役立つ実用書でもあるのだ。

 先延ばし克服に役立つと称する類書はこれまでにも少なくなかったが、本書はそれらとは格と信憑性が違う。心理学や脳科学、行動経済学などの最新成果を駆使した、「データによって科学的に実証された」アドバイスばかりが並んでいるのだから。

 本書には、次のような一節がある。

 先延ばし癖と無縁の職種は考えづらいが、この悪癖がことのほかひどいのは物書き業かもしれない。



 この言葉どおり、本書は物書きのため、なかんずく私のためにあるような本といえよう(笑)。
 四半世紀にわたるこれまでのライター生活で、まったく先延ばしをせず原稿を書きつづけてこられたとしたら、少なく見積もっても現状の10倍以上の仕事ができたにちがいない(私だけではなく、多くのフリー物書きがそんなふうに思うはず)。
 先延ばし癖克服は物書きの永遠の課題であり、ゆえに私もこれまで何冊もの類書に手を伸ばしてきた。その中で、本書は内容の充実度がダントツだと思う。

 どこかで聞いたようなアドバイス(つまり類書に書いてあったこと)もないではないが、多くは納得のいくものであり、しかも実行がたやすいものだ。
 それらのアドバイスにどの程度実効性があるかは、今後私が人体実験をして確かめてみるとしよう。

 最近、日本では本書のような「先延ばし克服術」本の翻訳刊行が相次いでいる。その理由も、本書を読めばわかる。人々の先延ばし傾向は、近年とみに強まっているのだ。
 「誘惑が近くにあると、先延ばしが非常に助長されやすい」ものだが、現代はネットやオンラインゲーム、SNSなど、仕事の先延ばしを助長する誘惑に満ちた時代だ。ゆえに、デスクワークに就いている人にとっては、ネット時代以前よりもはるかに先延ばし癖が重症化しやすいのである。

 その他、肝に銘じようと思った一節を引用する。

 仕事を先延ばしにする人が最もよく口にする言い訳は、「追い込まれたほうがいいアイデアが浮かぶんですよ」というものだ。そう感じる理由は、非常にはっきりしている。締め切り直前にならないと仕事に手をつけないとすれば、もっぱら締め切り直前にアイデアが生まれるのも当たり前のことだ。
 しかし、土壇場で生まれるアイデアは、早い段階から取りかかる場合より質も量も劣る。



 先延ばし人間は、そうでない人たちより貧しく、不健康なだけでなく、不幸せに感じている。その一因は、先延ばし行為に付随するストレスと後ろめたさにある。



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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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