『間違いだらけの生活保護バッシング』


間違いだらけの生活保護バッシング―Q&Aでわかる 生活保護の誤解と利用者の実像―間違いだらけの生活保護バッシング―Q&Aでわかる 生活保護の誤解と利用者の実像―
(2012/08/21)
生活保護問題対策全国会議

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 生活保護問題対策全国会議編『間違いだらけの生活保護バッシング――Q&Aでわかる 生活保護の誤解と利用者の実像』(明石書店/1050円)読了。

 某お笑い芸人の母親が生活保護を受給していた問題(といっても、不正受給にはあたらないのだが)を発端に、全マスコミをあげて燃え上がった「生活保護バッシング」。それがいかに誤解と偏見に基づいているかを、生活保護の現場を熟知する専門家たち――反貧困運動の活動家、弁護士、社会福祉学の研究者など――が説いた反論の書である。
 章立ては以下のとおり。

第1章 Q&A:生活保護の誤解と利用者の実像
第2章 生活保護利用者の声
第3章 マスコミによる生活保護報道の問題点
第4章 生活保護“緊急”相談ダイヤルの結果報告
第5章 生活保護バッシング、餓死・孤立死事件と生存権裁判
第6章 生活保護をめぐる最近の動きと改革の方向性



 このうち、全18問のQ&Aからなる第1章が本書の肝といえる。生活保護に対する誤解と偏見を代表する問いに答えていくなかで、生活保護制度の現状や問題点が鮮やかに浮かび上がる。この章自体が簡潔な生活保護入門になっているのだ。
 生活保護バッシングに共鳴し、「ナマポ受給者なんか、みんな怠け者で恥知らずのクズ。受給者はどんどん減らせ。支給額も下げろ」と思っている人は、この章だけでも読むとよいと思う。

 執筆者たちの反論はいずれも実証的データに基づく冷静なもので、説得的だ。ここでは一例として、「はじめに」の一節を引いておく。

 「不正受給」は、金額ベースで受給者全体の0・4%弱という数字で推移しているのに対して、生活保護の捕捉率(利用資格のある人のうち現に利用している人の割合)は2~3割にとどまっています。客観的なデータを見ると、むしろ、日本では必要な人に保護が行きわたっていないこと(漏給)の方が大きな問題なのですが、そのことはほとんど知られていません。生活保護利用者が増えたといっても日本での利用率は人口の1・6%に過ぎず、先進諸国(ドイツ9・7%、イギリス9・3%、フランス5・7%)に比べると異常と言ってもよい低さです。これは、日本では生活保護を使うことが「恥」であるという意識が強く、「できる限り使いたくない制度」になってしまっていることによります。2012年に入ってから全国で餓死や孤立死が相次いでいますが、餓死するほど困窮しても生活保護を使おうと思えないことのほうが大きな問題ではないでしょうか。



 飛躍したことを言うようだが、私にはマスコミによる「生活保護バッシング」が、現在の煽動的な反中国報道と二重写しになって見える。
 ごく一部の不正受給者の存在をもって、生保受給者全体を蔑視し、叩くこと。ごく一部の中国人が反日デモで暴徒化したことをもって、13億人の中国人全体を憎悪し、敵視すること――2つは相似形だと思うのだ。

 本書の内容でとくに目からウロコだったのは、「生活保護支給額を下げろ!」という声がかりに実現したなら、それが非受給者の生活をも圧迫することになる、という事実。
 生活保護費は「ナショナル・ミニマム」(政府が国民に保障する生活の最低限度水準)だから、それが低下すれば連動して最低賃金も引き下げられる。そのことで「労働のコストは全般的に現在より低く見積もられ、あらゆる層で収入が低減する」という。それ以外にも、課税最低基準や生活扶助制度の適用基準にも影響があらわれ、生活が苦しい層はますます苦しくなる、という。
 つまり、支給額引き下げは誰の得にもならないばかりか(いや、政府や推進した政治家の得にはなるか)、多くの人にとって損なのだ。

 そのほかにも、生活保護についての目新しい知見がちりばめられた良書。120ページに満たない薄い本なので、サッと読めるのもいい。

■関連エントリ→ 本田良一『ルポ 生活保護』レビュー

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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