ビーチ・ボーイズ『スマイル』


スマイルスマイル
(2011/11/02)
ビーチ・ボーイズ

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 遅ればせながら、ビーチ・ボーイズの『スマイル』を聴いた。昨年11月に初めて公式リリースされ、大きな話題をまいた、「ロック史上最も有名な未発表アルバム」である。

 『スマイル』は、本来なら1967年に発表されるはずだったアルバム。曲の大半を手がけていたブライアン・ウィルソンの精神状態の悪化などにより、完成に至らないままお蔵入りとなったのだ。

 今回の公式リリースにあたってブライアンがライナーにメッセージを寄せているのだが、そこには次のような一節がある。

 ビートルズと張り合ってやろうという気持ち、レコード会社からのプレッシャー……、それらすべてが重くのしかかり、どうにもならなくなっていた。そのときわかった。これは中止にしなければならないと。このままでは『スマイル』につぶされてしまう。もしあのまま続けていたら、ビーチ・ボーイズだって危なかったかもしれない。だから終わりにした。1967年のある春の日、僕はみんなに『スマイル』を完成させるつもりのないことを伝えた。そしてテープを倉庫の棚にしまい、そのまま放っておいた。
(中略)
 僕はもうこの『スマイル』セッションについては、いっさい話題にしたくなかった。たとえ誰であっても。
 僕のクリエイティヴなハートは粉々に打ち砕かれ、心の一番奥底にある音楽は、眠ったまま鍵をかけられた。



 その後、『スマイル』のために作られたいくつかの曲は断片的にほかのアルバムに収録されたものの、全貌は封印されたままだった。
 そして、ロック・ファンの間で『スマイル』は“神格化”された。未発表にもかかわらず、アルバム研究書さえ刊行されたほどだ。

 その幻のアルバムが、メンバーの全面協力の下、オリジナル・セッションを最初に意図された形にできるかぎり近づけて編集し、発売されたのだ。
 2004年にはブライアンが『スマイル』全曲を再演し、自らのソロ・アルバムとして発表しているが、今回は正真正銘のオリジナル『スマイル』である。

 ブライアンが「神に捧げるティーンエイジ・シンフォニー」と表現したという『スマイル』のサウンドは、前作にあたる『ペット・サウンズ』(1966)をさらに発展させたような、複雑精緻なもの。ハーモニーとメロディは陰影を帯びて美しく、サイケデリックなきらめきが全編に満ちている。初期ビーチ・ボーイズのお気楽な明るさはない内省的なコンセプト・アルバムだが、十分にポップで聴きやすい作品でもある。
 このアルバムに深くかかわったヴァン・ダイク・パークスの『ソング・サイクル』を彷彿とさせる部分もあるが、『ソング・サイクル』よりもずっとメリハリがあって聴きやすい。

 私自身はビーチ・ボーイズにも『スマイル』にもとくに思い入れはないのだが、これはよかった。何より、ブライアンのイノセントで傷つきやすい心がそのまま結晶化したような、儚い美しさに胸打たれる。

 もしも『スマイル』が予定どおり発売されていたら、ロックの歴史は少しだけ変わっていたかもしれない――そんなことも思わせる、「伝説」に恥じない傑作。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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