阿部彩『弱者の居場所がない社会』


弱者の居場所がない社会――貧困・格差と社会的包摂 (講談社現代新書)弱者の居場所がない社会――貧困・格差と社会的包摂 (講談社現代新書)
(2011/12/16)
阿部 彩

商品詳細を見る


 昨日は、東日本大震災の関連取材で宮城県石巻市へ――。
 仙台まで新幹線で行き、そこからカメラマンの車に乗せてもらう。

 石巻は昨年8月に取材に行って以来、8ヶ月ぶり。
 去年の夏に比べたら活気が戻ってはきているものの、瓦礫の山はまだかなり残っているし、一階部分が津波でぐしゃぐしゃになったまま放置されている建物も多数。

 震災関連取材は、今後もつづけていきたいと思う。


 行き帰りの新幹線で、阿部彩著『弱者の居場所がない社会――貧困・格差と社会的包摂』(講談社現代新書/777円)を読了。

 著者は、国立社会保障・人口問題研究所に勤務する貧困問題の研究者。
 この人の本は、前に『子どもの貧困――日本の不公平を考える』(岩波新書)を読んだことがある。同書は子どもの貧困問題に絞った概説書であったが、本書はより広い視点から日本の貧困問題を概説したもの。
 帯の惹句のとおり、貧困問題を大づかみに理解するための入門書としてよくまとまっている。貧困研究の最前線を垣間見ることができるし、「社会的包摂(Social Inclusion)」の概念の解説書としても優れたものである。

 『子どもの貧困』を読んだとき、当ブログのレビューで私は次のように書いた。

 湯浅(誠)らの著作にあるような生々しい人間ドラマは、本書にはない。それに、データや図表を駆使した内容はどちらかというと政府が出す白書のようで、無味乾燥な感じがしないでもない。



 ところが、本書には「生々しい人間ドラマ」が随所にあり、白書的な無味乾燥に陥ることを免れている。著者が研究者になる前に参加していたボランティア活動で出会った「ホームレスのおっちゃん」たちの思い出がちりばめられ、著者の主観、「素」の部分が大きなウエートを占めた内容になっているのだ。
 そうした変化について、著者はあとがきでこう書いている。

 どちらかと言えば、客観的なデータ重視で論考を進める私のスタイルとは一転する展開となった。(中略)私は社会的排除/包摂というトピックについて、彼ら(出会ったホームレスたち/引用者注)のことなしに考えることはできない。社会的排除を、抽象的な理論や、無機質なデータで語ることができない。



 実体験をふまえた本書の「熱さ」が、私には好ましく思えた。『子どもの貧困』より本書のほうがずっとよい。貧困問題の入門書でありながら、一冊の本としてすこぶる感動的である。たとえば、次のような一節は胸にしみる。

 現代日本社会の中で、かっちゃんが「承認」された場は路上だけであった。彼を包摂したのは路上のコミュニティだけであった。私が彼と出会って3年ほどしたころ、寝ていた段ボール小屋に火をつけられて、泥酔していたかっちゃんは眠ったまま焼死した。焦げた地面のあとには、仲間がいつまでも野の花を供えていた。



関連記事

トラックバック

コメント

コメントを残す

Secret


Guide 

   →全記事インデックス

Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

Counter 

メールフォーム

★私にご用の方はここからメールを下さい。

お名前
メールアドレス
件名
本文

最近の記事

マイ「神曲」ベスト100

カテゴリー

ブクログ・MY本棚

タイトルの由来

●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

Archives

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
30位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
22位
アクセスランキングを見る>>