石井光太『遺体』


遺体―震災、津波の果てに遺体―震災、津波の果てに
(2011/10)
石井 光太

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 昨日は、東大地震研究所の平田直(なおし)教授を取材。

 地震学に門外漢の当方に、地震発生予測の現状などについて、懇切丁寧に解説してくださった。とても誠実な研究者という印象。教授は最近『週刊文春』などで理不尽なバッシングを受けたが、週刊誌報道で「人をわかったつもり」になってはいけないと、改めて思う。
 また、例の地震予測についても、一部報道は相当偏った伝え方をしていることがよくわかった。


 行き帰りの電車で、石井光太著『遺体――震災、津波の果てに』(講談社/1575円)を読了。

 海外の最貧国ルポで知られる石井が、東日本大震災直後から3ヶ月間にわたって岩手県釜石市で取材をつづけ、書き上げたノンフィクション。

 遺体安置所を主舞台として、地震と津波で命を落とした人々の遺体をめぐるドラマに的を絞っている。
 この設定に、ある種の「あざとさ」を感じないでもない。遺体をめぐるドラマは、震災の出来事のうち最も衝撃的であり、そこだけを凝縮した本作は、いわば「衝撃作となるに決まっている」からである。
 「あざとさ」を、「センセーショナリズム」と言い換えてもよい。石井の過去作でもときどき感じたことだが、彼には人目を引くきわどい場面ばかりを強調して書きたがる癖(へき)がある。その癖は一歩間違えれば、『週刊新潮』的センセーショナリズムに堕してしまうだろう。

 森達也氏らが震災被災地を撮ったドキュメンタリー映画『311』に対して、「遺体を映して金儲けをしている」という批判がなされたそうだが、本書もそのような批判にさらされかねない作品といえよう。

 ……と、読む前にはそのような危惧を抱いていたのだが、読んでみたら煽情的なところは微塵もない真摯な作品であった。

 ずっと自分を主人公にしてノンフィクションを書いてきた石井が、本作では作中の「自分」を消し、三人称で登場人物の心の裡までを描くニュー・ジャーナリズム的手法を用いている。そして、それが十分に奏功している。
 取材は綿密で、読みながら遺体安置所の空気が伝わってくるような臨場感がある。おびただしい遺体に、なんとか人としての尊厳を与えようとする無名の勇者たち――民生委員・市職員・医師・消防団員・自衛隊員・僧侶など――の奮闘が、感動的だ。

 最貧国取材という得意技を封じて主舞台を日本に移しても、石井はノンフィクション作家として立派にやっていける。そのことを証明した力作。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。56歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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