塩川桐子『ふしあな』


ふしあなふしあな
(2009/04/29)
塩川 桐子

商品詳細を見る


 塩川桐子の『ふしあな』(小池書院/1200円)を読んだ。

 このマンガ家のことはまったく知らなかった。
 一ノ関圭の『茶箱広重』(これはマンガ史上に輝く大傑作)を久々に再読し、同作についてあれこれ検索していたとき、アマゾンの「この商品を買った人はこんな商品も買っています」という例のアレで、本作が出てきた。それで興味を抱き、予備知識のないままポチっとして買ってみたのである。

 そうしたら、これが大当り! 短編6編を集めたものだが、6編とも傑作なのだ。
 1990年代に一度単行本化されたものの復刊だという。こんな素晴らしいマンガを知らなかったとはうかつであった。

 カバーでわかるとおり、浮世絵風の絵柄を用いたマンガである。舞台は当然江戸時代で、浮世絵の世界が見事にマンガ化された大人のラブストーリー集となっている。

 「浮世絵風マンガ」の試みといえば、故・杉浦日向子の名作『二つ枕』がまず思い浮かぶ。
 この手の作品のオリジネイターとしての栄誉は杉浦のものだが、作品の質で比べれば、本作は『二つ枕』に勝るとも劣らない。

 『二つ枕』は吉原の遊女の世界を描いた連作だったが、本書が扱う題材はもっと幅広い。武家の恋愛もあれば遊女と職人の恋を描いたものもあり、果ては「衆道」の世界を扱った男同士のラブストーリーまである(これがじつによい。「三島由紀夫に読ませたかった」と思わせる作品だ)。

 浮世絵がそのままマンガになったような絵は、パッと見こそ違和感があるものの、読み始めるとその違和感はすぐに消える。普通の少女マンガを楽しむような感覚で楽しめるのだ(所収作品の初出誌は『プチフラワー』)。江戸言葉を見事に活かしたセリフも、読んでいて小気味よい。

 私がいちばん気に入ったのは、最後の「杜若」(かきつばた)。そのまま映画化したいくらいの素晴らしさだ。

 「この人のほかの著作も読んでみたい」と思ったのだが、なんと、この一冊しか出ていなかった。マンガ家を廃業してしまったわけではなく、年に一作くらいのスローペースで作品を描いているのだそうだ(本書のあとがきマンガによる)。
 恐るべき寡作! とはいえ、年一作ペースだとしても次の本が出せるくらいはもうたまっているはずだし、どこかの版元にぜひ出してほしいところ。

関連記事

トラックバック

コメント

コメントを残す

Secret


Guide 

   →全記事インデックス

Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

Counter 

メールフォーム

★私にご用の方はここからメールを下さい。

お名前
メールアドレス
件名
本文

最近の記事

マイ「神曲」ベスト100

カテゴリー

ブクログ・MY本棚

タイトルの由来

●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

Archives

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
34位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
23位
アクセスランキングを見る>>