石井光太『ルポ 餓死現場で生きる』


ルポ 餓死現場で生きる (ちくま新書)ルポ 餓死現場で生きる (ちくま新書)
(2011/04/07)
石井 光太

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 石井光太著『ルポ 餓死現場で生きる』(ちくま新書/903円)読了。

 石井の著作の中では、『絶対貧困』と同系列の一冊。つまり、『レンタルチャイルド』のようなワンテーマ・一国に絞った内容ではなく、彼が取材を重ねた最貧国各国の状況を、章ごとのテーマに沿って網羅的に紹介したものなのだ。
 ゆえに、彼の著書を初めて読む人にとっては『絶対貧困』と並んでオススメできる一冊。「光太ワールド」への入門書として好適であり、同時に世界の貧困状況の優れた概説書にもなっている。

■関連エントリ→ 石井光太『絶対貧困』レビュー

 読み終えてみると、書名にいささかの違和感を覚える。この書名だと、餓死寸前で寝たきりの人々を著者が看取っていく内容のように思えてしまうから。
 実際にはそうではなく、餓死と隣り合わせの貧困状況の中でぎりぎりの生を生きる人々を活写した内容である。

 章立ては、以下のとおり。

第1章 餓死現場での生き方
第2章 児童労働の裏側
第3章 無教養が生むもの、奪うもの
第4章 児童結婚という性生活
第5章 ストリートチルドレンの下克上
第6章 子供兵が見ている世界
第7章 なぜエイズは貧困国で広がるのか



 この章立てからもわかるとおり、貧困の悲惨さがいちばん如実に表れる子どもたち(そして女性たち)の生活にウエートを置いた内容になっている。

 最終章に、「世界は私たちが想像しているよりもはるかに複雑です」という一節がある。私が本書から抱いた感想も、その一言に集約される。
 私たちはとかく、自分の知らない世界を単純化し、善悪二元論にあてはめて捉えがちだ。「児童労働? 児童結婚? まあ、なんておぞましい! そんなことは絶対に許されるべきではありません」というふうに……。

 もちろん、児童労働も児童結婚もないほうがいいに決まっている。しかし、それは現実にあるのだし、それを「させる側」が一方的な悪であるともかぎらない。

 たとえば、著者は次のように言う。

 地域によっては児童労働それ自体が貧困のセーフティーネットになっています。それを奪ってしまうことは、貧困家庭の命綱を断ってしまうことにもなりかねないのです。



 また、ムンバイーの売春宿を取材した際に見た、売春組織が幼い売春婦たちに言語教育を施している例が紹介される。
 彼女たちは元ストリートチルドレンであり、多くは文盲である。そのため、客と円滑なコミュニケーションが取れるようにと、ヒンディー語を教えているのだった。

 売春宿で働くある女の子がこう語っていたのが印象的でした。
「ストリートチルドレンとして生きていたら、一生そのままだったと思う。けど、こうやって売春宿で働かせてもらえれば、言葉をちゃん理解できるようになれる。そうすればどこへでも行けるし、別の仕事だってやれる。何も知らずに路上でゴミを拾っているよりはずっと良かったと思っている」



 ストリートチルドレンをさらってきて児童売春をさせる組織――それは、世間的な基準ではまごうかたなき極悪である。しかし、売春させられている当人たちにとっては必ずしも悪ではないのだ。よい悪いはべつにして、そのような現実がある。まさに、「世界は私たちが想像しているよりもはるかに複雑」なのである。

 石井光太の本がつねにそうであるように、彼は最貧国の現実を先進国的正義で裁断するような真似はしない。ただ虚心坦懐に、人々の生の営みを見つめるのだ。そのまなざしを通じて、読者にとっても「世界が変わって見える」好著。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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