沼田まほかる『彼女がその名を知らない鳥たち』


彼女がその名を知らない鳥たち (幻冬舎文庫)彼女がその名を知らない鳥たち (幻冬舎文庫)
(2009/10)
沼田 まほかる

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 沼田まほかる著『彼女がその名を知らない鳥たち』(幻冬舎文庫)読了。
 この人の作品を初めて読んだが、とてもよかった。

 ミステリではあるのだが、風変わりな恋愛小説として、ひいては純文学としても読めそうな深みと多面性をもった作品。
 路線としては桐野夏生に近いか。それも、桐野の作品世界をもっと下層社会寄りにし、もっと生々しくした感じ。いわば、“プアマンズ桐野夏生”。……などと言うとホメているようには聞こえないだろうが、ホメ言葉としてそう言いたい。

 男に捨てられたヒロインが、その寂しさのすき間を埋めるため、何の気なしに関係をもった陣治。関係はずるずるとつづいていくものの、ヒロインは彼を少しも好きになれない。彼女が陣治に対して抱く嫌悪感が、これでもかとばかりに描写される。私小説でもここまではやらんぞ、という執拗さである。

 卑小でだらしなく、いじましく、汚らしい中年男。かりにも小説の副主人公でありながら、これほど魅力のないキャラも珍しい。さりとて、つまらないかというとそうではなく、あまりにもリアルな「醜い男女関係」の描写に目が釘付けになる。

 対照的に、ヒロインがかつてつきあっていた男と、現実逃避のようにつきあい始めるもう1人の男は、フツーの恋愛小説の主人公のような「軽薄なカッコよさ」を具えている。
 つまり著者は、一般受けするオシャレな恋愛小説を書こうと思えば書ける人なのだ。それだけの筆力がある。なのに、あえてその路線は封印し、もうひとひねりした、ささくれだった異形の恋愛小説を書いたのである。

 前半だけ読めば純文学寄りの恋愛小説なのだが、後半、ヒロインがつきあっていた男が謎の失踪を遂げていた……という展開になって、ミステリに変容していく。そのころには読者もすっかり著者の術中にはまり、どんでん返しのラストまで一気呵成に読んでしまう。

 著者は僧侶や建設会社経営を経て、50代半ばでデビューしたという異色の経歴の持ち主。豊富な人生経験ゆえか、若い女性には出せない深みと独創性をもったエンタテインメントを書く。
 たいへん気に入った。ほかの作品も読んでみることにする。

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[沼田まほかる] 衝撃作「彼女がその名を知らない鳥たち」

沼田まほかる、「彼女がその名を知らない鳥たち」(幻冬舎文庫) 一言でいえば、衝撃的な作品だった。面白かったとか悲しかったとかいう以前に、ハンマーで胸の奥をぶっ叩かれたような。すごく感動した、ということは時々あるが、衝撃を受けることは珍しい。最近ちょっと記

コメント

沼田まほかるにゾッコンです。
小説というより、ドキュメンタリーを読んでいるような筆力が凄い!陣治の生理的に受け付けない人物像、同じくらいに、どうしょうもなく母性をくすぐられる独特の魅力。自分と重なる、十和子の勝手さ、浅はかさ。ほんの脇役ながら、姉の美鈴も魅力的です。一気に読み進み、最後はポロポロ、ポロポロ泣けて泣けて。悲しいとか、感動した、とかではなく、結局この2人の間にあったものは、親子愛に近いものかもしれない。まだまだ、しばらく頭から離れそうもない、素晴らしいミステリーでした。
  • 2012-05-19│15:26 |
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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