広河隆一『福島 原発と人びと』


福島 原発と人びと (岩波新書)福島 原発と人びと (岩波新書)
(2011/08/20)
広河 隆一

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 広河隆一著『福島 原発と人びと』(岩波新書/798円)読了。

 チェルノブイリ原発事故の取材と救援活動を20年以上つづけてきたフォトジャーナリストが、福島第一原発の事故直後からの現地取材をまとめた、迫真のルポルタージュ。

 役場の周辺で、私の測定器は振り切れてしまった。
 私は一九八九年三月以来これまでおよそ五○回にわたってチェルノブイリ周辺の取材を行っているが、この測定器が振り切れるという経験はない。



 ――これは、震災3日目に双葉町に入った際の記述。

 写真も多数収録しており、その分文章量は少なめだが、ちりばめられた現地の人々の言葉が重く、読み流すことを許さない。言葉の一つひとつ、写真一枚一枚が心に引っかかり、じっと見入ってしまうのだ。

 たとえば、避難区域となり、無人と化した浪江町の路上で息絶えた猫をとらえた写真がある。
 その死骸を、元は飼い犬であったろう黒い犬が見つめている。何の言葉も要さずに原発事故の無惨さを伝える、見事な一枚である。

 著者は本書で一貫して市民の側に立ち、その悲しみと怒りの声を丹念に刻みつけていく。
 生活の糧を奪われてしまった、第一次産業従事者たちの慟哭。
 県民の間でさえ原発に対する態度が二分され、コミュニティに深い亀裂が入った現実。
 そして、さまざまな場面で福島県民に向けられる、あからさまな差別……。一つひとつの言葉に血がにじんでいるようだ。

 たとえば、東京で献血しようとしたら、いわき市から来たことを理由に、「遺伝子に傷がついている可能性があるのでお断りします」と拒否されたという男性のエピソード。

 翌日、厚労省に問い合わせると、作業員で一○○ミリシーベルトを超える被曝を受けている人は、輸血できないと指導しているとの答えだった。当然、彼はあてはまらない。日本赤十字にそう言うと、「指導が行き届かず申し訳ありませんでした」との答えだった。
(中略)
 ネットに輸血を拒否されたことを書くと、「死ね」「輸血テロ」「人殺し」とたたかれた。



 よく似た差別の事例は、私も福島取材で何度か耳にした。福島は地震・津波・原発事故の「三重苦」だと言われてきたが、いまや差別も加わって「四重苦」になりつつあるのだ。

 また、全8章のうちの一章を割いて、チェルノブイリの被災者が歩んできた道のりが紹介される。それは、福島の未来の姿かもしれない。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。56歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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