上原ひろみ『ヴォイス』


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(2011/03/16)
上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト フィーチャリング・ アンソニー・ジャクソン&サイモン・フィリップス

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 遅ればせながら、上原ひろみの『ヴォイス』を聴いた。3月に発売され、多くの目利きが「上原ひろみの最高傑作」と評した話題作である。

 なるほど、たしかにこれは上原ひろみの(現時点での)マスターピースかもしれない。ジャズのことはよくわからない私だが、それでも、このアルバムがある高みに達していることはわかる。

 これまでのアルバム中、いちばんバランスがよいというか、中道を行く感じの音。
 上原ひろみの中にはジャズの枠を超える先鋭性とジャズの正統性の担い手としての部分が同居していて、過去のアルバムではそのいずれかに偏っていた印象がある。
 たとえば、思いっきりロック寄りの音だった『タイム・コントロール』に私は快哉を叫んだものだが、正統派ジャズ・ファンにはあのアルバムは評判が悪かった。逆に、ストレート・アヘッド寄りの『プレイス・トゥ・ビー』などは、私のようなリスナーには退屈だった。

 しかし、今回は彼女のもつ両面がよい形で、バランスを保ったまま発揮されている。私のようなロック寄りのリスナーも、正統的ジャズ・リスナーも納得させる音になっている感じ。高い精神性を孕みながらも、少しも難解ではなく、流麗かつポップで、聴きやすい。

 『タイム・コントロール』のようにあからさまにロック寄りの音ではなく、シンセサイザーの使い方もごく控えめなのに、全編がロック的ダイナミズムに満ちている。
 たとえば、冒頭を飾るタイトル・ナンバーなど、まるでELP(エマーソン、レイク&パーマー)がアコースティック楽器のみを用いてジャズを演っているみたいである。また、基本的にはロック畑の腕利きドラマーであるサイモン・フィリップスがトリオの一員となっていることで、彼の力強いドラムス自体が全編にダイナミズムを与えている。

 私はかつて、上原ひろみのデビュー作『アナザー・マインド』(2003)のレビューで、彼女の速弾きについて次のような苦言を呈した(素人のくせにエラソーだけど)ことがある。

 このアルバムでは数曲ですさまじい速弾きを披露しているのだが、その速弾きにあまり必然性がないというか、「もう少し普通に弾いてもいいのになあ」と思ってしまう。

 怒濤の速弾きは聴いていて小気味よい。でも、その小気味よさは、サーカスの軽業を見たときの感覚に近いもので、「音楽に感動する」のとは似て非なるものだという気がする。



 この『ヴォイス』でも随所にすごい速弾きがあるのだが、デビュー作とは異なり、そのすべてに必然性が感じられる。曲の流れの中に速弾きが見事に調和して、少しも浮いていないのだ。
 デビュー以来の8年間で、上原ひろみはそれくらい大きく成長したのである。素人目にもその成長がはっきりわかるほどに。
 
 前作にあたる昨年の『スタンリー・クラーク・バンド フィーチャリング上原ひろみ』で披露していた大傑作「ラビリンス」を、本作でも再演している(きっと、彼女自身にとってもお気に入りの曲なのだろう)。前作のものより時間もやや長めで、さらに迫力ある演奏になっていて、素晴らしい。

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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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