中沢新一『日本の大転換』


日本の大転換 (集英社新書)日本の大転換 (集英社新書)
(2011/08/17)
中沢 新一

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 昨日は都内某所で、中島岳志さん(北海道大学准教授)と松岡幹夫さん(東日本国際大学客員教授/東洋哲学研究所研究員)の対談取材。
 テーマは「仏教の社会貢献」。濃密な対談になり、聞いている私もたいへん勉強になった。

 行き帰りの電車で、中沢新一著『日本の大転換』(集英社新書/735円)を読了。

 先日、『大津波と原発』(中沢さんと内田樹さんほかの鼎談)を読んだ際、「この鼎談をベースに、中沢氏に東日本大震災の思想的意味を深く掘り下げた大著をものしてもらいたい」とこのブログで書いたが、本書はまさにそのような内容。
 ただ、150ページ程度の薄い本なので(※)、読み足りない。大震災をめぐる思索をまとめた大著を今後出すとしたら、本書はその「序論」という印象だ。

※一時期、新書がどんどん厚くなる傾向があったが、最近またどんどん薄くなってきている。要は、あまり分厚い新書は読者に敬遠されやすく、薄いほうが売れるのだろうな。

 とはいえ、薄くても内容は刺激的。東日本大震災と原発事故が人類史上においていかなる意味をもつのかを、中沢さんならではの視点から思索した内容となっているのだ。

 とくにスリリングなのは、原子力技術が過去のエネルギー技術とはまったく隔絶した技術であることを、一神教とのアナロジーから解説したくだり。
 火の利用から石油に至る過去のエネルギー革命は、「生態圏から直接的に採取可能な燃料を使って」いた。ところが、原子力だけは生態圏に属さない「外部」から持ち込んだエネルギーであり、宗教でいえば一神教的だというのである。

 ほんらい生態圏には属さない「外部」を思考の「内部」に取り込んでつくられた思想のシステム、それはほかならぬ一神教(モノティズム)である。「第七次エネルギー革命」の産物である原子力技術の、宗教思想における対応物が一神教なのである。
(中略)
 一神教が重要なのは、それに特有な「超生態圏」的な思考が、西欧においてキリスト教の衰退後に覇権を握った、世俗的な科学技術文明の深層構造にも、決定的な影響を及ぼしているからである。



 東日本大震災と原発事故は、現代文明そのものの一大転機であり、人類は新しい文明のありようを模索していかなければならない……というようなことは多くの論者が言っているわけだが、それをこんな角度――エネルギー革命の深層にある宗教思想を抽出する――から論じた人は中沢さんしかいなかった。

 『日本の大転換』とは、「原子力発電からの脱却」の動きが、エネルギー技術の転換であるにとどまらず、「私たちの実存のすべてを巻き込んだ、ラジカルな転換をもたらす」という見立ての謂である。

 太陽光エネルギーなどの自然エネルギーへのシフトによる、来るべき「第八次エネルギー革命」。それは原子力発電という一神教的技術から、仏教的技術への転回でもある、と中沢さんは言う。

 どのエネルギー革命も、それに対応する宗教思想や新しい芸術をもっているものである。たとえば、第一次エネルギー革命にはプロメテウス型の火の神話群が対応し、第五次から第六次エネルギー革命には印象派から抽象芸術への展開が対応している。それならば、来るべきエネルギー革命については、どうであろうか。誤解を恐れずに宗教思想とのアナロジーを用いてみよう。すると第八次エネルギー革命は、一神教から仏教への転回として理解することができる。
(中略)
 仏教は、生態圏の外部の超越者という考え方を否定する。そして、思考におけるいっさいの極端と過激を排した中庸に、人類の生は営まれなければならないと考えた。



 たしかに、太陽光発電などの自然エネルギーは、草木の中にも仏性を見出す仏教と親和性が高いといえよう。
 中沢さんは、「あとがき」で次のようにも言う。

 「自然エネルギー」をビジネスの話で終わらせてはいけないのだ。私たちは、ビジネスも包み込むことのできるほどに強力なビジョンをもち、それを実現させていくための見取り図を、あらかじめ描いておかなくてはならない。そうでなければ、今回の大震災と原発事故によって受けた日本人の深い傷は、癒されることがない。



 ただ、本書のみでは、中沢さんのビジョンは直観の域を出ていないようにも思う。エネルギー革命を今後どう進めていくべきかなど、個別の各論をさらに掘り下げ、緻密に展開する必要があるだろう。
 中沢さんは現在、本書のビジョンの経済革命の側面を掘り下げた(ものになると思われる)著作『黄色い資本論』を準備中だそうだから、期待したい。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。56歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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