野村総合研究所『2015年の電子書籍』


2015年の電子書籍2015年の電子書籍
(2011/03/18)
野村総合研究所

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 今日は都内で打ち合わせが一件。 

 行き帰りの電車で、野村総合研究所(前原孝章・川元麻衣子・石田樹生)著『2015年の電子書籍――現状と未来を読む』(東洋経済新報社/1785円)を読了。

 東日本大震災勃発とほぼ同時期に刊行されたため、まるで話題にならなかった不運な本。大震災の衝撃で、電子書籍本(=電子書籍をテーマにした紙の本)ブームなんかどっかいっちゃったからである。

 読んでみれば、電子書籍本としては悪くない出来だ。
 野村総研が作った本なのでもろ「白書」「レポート」っぽい作りで、文章は無味乾燥。佐々木俊尚の『電子書籍の衝撃』のような面白みはまるでない。

 しかし、大手シンクタンクならではの機動力と情報収集力を駆使したデータと分析は詳細で、資料的価値は高い(とくに、第6章の電子書籍市場の日米比較は読みごたえ十分)。
 佐々木俊尚や西田宗千佳の本が、一人で書いたがゆえに「葦の髄から天上を覗く」趣なのに対し、本書は大がかりな調査のもとにまとめられているため、より鳥瞰的・大局的なのだ。

 「教育分野における電子化」「法人内での電子書籍」などという章もある。これらは既成の電子書籍本にはなかった切り口で、本書の独創といえる(私には関心のない領域だけど)。

 私にとっていちばん面白かったのは、最後の第Ⅲ部「電子書籍市場の今後と関連業界への影響」。
 書名にある2015年――4年後の至近未来の電子書籍市場を予測したパートで、未来に希望のもてる内容になっているのだ。

 現時点ではまったく「商売になっていない」日本の電子書籍だが、本書では次のような市場の拡大が予測されている。

 弊社で実施したアンケートをベースに市場規模予測を行った結果、国内の電子書籍コンテンツ市場規模(書籍・雑誌・新聞等の文字コンテンツ)は2015年には250億円を超えると期待される。



 取次業界については、「電子書籍により15%の売り上げ減少がもたらされるとすると、大手3社ですら利益がほとんど出ない構造に陥る可能性がある」と、厳しい未来を予測している。対照的に、出版社については意外に明るい未来を描いているのだ。

 (電子書籍の場合)一点一点の書籍の単位で考えると、損益分岐点は大きく下がると考えられる。すなわち企画数(新刊の数)をさらに増やすことが可能になる。
(中略)
 また、電子書籍化にともない、これまで出版社が取っていた在庫リスクがなくなる(返品の負担を考えなくて良くなる)。したがって、これまで「売れないかもしれない」ということでお蔵入りしてきた企画の出版や、コンテンツの海外販売を実現しやすくすることができる(翻訳のコストはかかってしまうが)。出版した書籍がヒットするかどうかは、ベテラン編集者にも見極めが難しく、しばしば博打にもたとえられる。新刊の数を低リスクで増やせるというのは、出版社のビジネスにとってプラスに働くと考えてよいと思われる。
 また、電子書籍化により書籍の保管にかかる費用が下がるため、絶版という概念を排することができるので、過去の資産(絶版本)を売上げに変えることも可能である



 これらは従来の類書でも挙げられていたことだし、“電子書籍が売れる時代”になって初めて享受できるメリットでもある。が、改めてデータをふまえて白書っぽく言われると、説得力がある。出版社にコバンザメして生きている身としては、希望が湧いてくるのである。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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