豊田徹也『珈琲時間』


珈琲時間 (アフタヌーンKC)珈琲時間 (アフタヌーンKC)
(2009/12/22)
豊田 徹也

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 中村とうよう(音楽評論家)氏自殺の報に驚く。飛び降りた立川市の自宅マンションが、我が家から数百メートルの距離だった。こんな近くに住んでたのか。
 私自身は『ミュージック・マガジン』より『ロッキング・オン』派だったので、中村とうように対してはあまり思い入れがない。渋谷陽一との論争(思えば、世にもくだらない論争だったが)も、『ロッキング・オン』誌上でリアルタイムでウォッチしていたものだ。

 それでも、弁当箱よりも分厚い中村氏の大著『大衆音楽の真実』とか、勉強のつもりで昔読んだっけ。ご冥福をお祈りします。



 豊田徹也の『珈琲時間』(アフタヌーンKC/580円)を読む。
 最初の長編『アンダーカレント』の高い完成度で目利きを唸らせた彼の、2冊目の単行本(デビューから8年で2冊。寡作だなあ)。2009年に出ていたのを知らなかった。

■関連エントリ→ 『アンダーカレント』レビュー

 今回は長編ではなく、全17話の連作短編集。タイトルどおり、コーヒーが全話のアクセントになっている。
 ハードボイルド風、SF風、フランス映画風、コメディ・タッチなど、一編ごとに趣向が異なる。

 淡いスケッチという趣の作品が多いので、『アンダーカレント』のようなずしりと重い感動はない。それに、玉石混淆でもある。
 とはいえ、各編とも豊田徹也らしさは全開なので、『アンダーカレント』が気に入った人なら愉しめるはず。『アンダーカレント』に登場したおかしな探偵・山崎も、何話かに登場していい味出してるし……。

 豊田は映画・音楽・本・マンガなどに対してかなりマニアックな知識の持ち主のようで、その知識を用いた「わかる人にはわかる」くすぐりが随所にある。

 たとえば、登場人物が1回ドリップした紙フィルターをもう1度使い、「出がらしのコーヒー」を入れるシーンがある。そのシーンのセリフが、「ポール・ニューマンも深町丈太郎もこうやった」というもの。
 これはなんのことかというと、映画『動く標的』にポール・ニューマンが出がらしのコーヒーを飲むシーンがあり、それをふまえて『事件屋稼業』(関川夏央・谷口ジロー)の主人公・深町丈太郎が「ポール・ニューマンもこうやった」とつぶやきながら出がらしのコーヒーを入れるシーンがあるのだ。
 つまり、その2つを知っている読者でないと、このセリフの意味がわからないのである。

 そういう「くすぐり」を理解できない人には、この作品の面白さは半分しか伝わらない(かくいう私にも、理解できずに素通りしたくすぐりはあるはず)。かなり読者を選ぶマンガなのだ。

 なお、絵柄は『アンダーカレント』よりもすっきりとして、さらにうまくなった感じ。空間造形力に富む描き手だと思う。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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