堀江邦夫『原発ジプシー』


原発ジプシー 増補改訂版 ―被曝下請け労働者の記録原発ジプシー 増補改訂版 ―被曝下請け労働者の記録
(2011/05/25)
堀江 邦夫

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 昨日は、大震災関連取材で福島県いわき市へ――。来週末には宮城県石巻市にも取材に行く予定。

 いわきの場合、途中まで新幹線を使うより特急で行ったほうが早いとのことで、上野から「スーパーひたち」に乗る。

 偶然、上野からいわきまでずっと山田洋次(映画監督)が同じ便に乗っていた。
 同乗のスタッフとのやりとりを見るとはなしに見ていたところ、人柄のよさが伝わってきて好感を抱く。若いスタッフに対してもエラソーにせず、対等な仲間として接している感じなのだ。エラソーな人って、わずかなやりとりからも傲慢さが伝わってくるものだからね。さすがは庶民派監督。



 行き帰りの車中で、堀江邦夫著『原発ジプシー』(講談社文庫)を読了。
 元本は1979年に刊行されたノンフィクションの名作で、私は初読。著者自らが3つの原発で下請け労働者として働いた体験を綴ったものだ。
 3月に起きた原発震災で再び注目を浴び、単行本と文庫で急遽復刊されている。もっとも、私が読んだのは1980年代に出た旧・文庫版だが……。

 いまの福島に震災がらみの取材に行くにあたって、車中で読むのにこれほどふさわしい本はあるまい。本書の3分の1は、まさに福島第一原発で働いた記録だし……。

 文章表現などは、「ニュー・ジャーナリズム」台頭以前の古めかしいノンフィクションという感じで、野暮ったい。しかし、内容の迫力はすごい。
 原発労働者が過酷で危険な労働環境にあることを、私たちは「なんとなく知っている」だけで実態は知らない。本書ではその過酷さ危険さが、微に入り細を穿ってつぶさに描き出される。

 ゾッとしたのは、原発内部(管理区域)での仕事に配置転換される際、労働者たちがそのことを「良かったなあ」と表現するくだり。
 つまり、管理区域外の作業があまりにつらい(熱さなどで)ため、放射線を浴びる区域での仕事が「ラク」に思えてしまうということだ。

 また、末端労働者同士にはあたたかい感情の交流も生まれるのに対し、各電力会社の幹部社員たちは下請け労働者をモノのように扱い、傲慢だ。その非人間性に対する告発が、本書のもう1つの見所になっている。
 たとえば、次のような場面――。

「これからは、構内でケガをした人は電力(関西電力)さんにあやまりに行くことになりまして……」
 このひとことに、室内は急に静かになった。静かになったというより、険悪なムードになったと言ったほうが適切だろう。中年の労働者が立ち上がった。顔面を紅潮させた彼は、強い口調でしゃべり始めた。
「だれだってケガしとうて、するんじゃないで。それなのに、だよ。いいですか、ケガして苦しむ本人が、そんな仕事をさせた電力に頭を下げにゃならんちゅうことは、どういうことですねん。ふざけちゃいけんよ。そんなことは、わしら下っ端に言うことじゃなくて、わしらを監督してる者に言うことやろ……」



 これは美浜原発での一コマだが、どの原発でも、「電力さん」と末端労働者の関係はこんな感じなのだろう。たぶんいまでも……。

 刊行後32年を経たいまなお(というより、いまこそ)読む価値のあるノンフィクションだ。

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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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