『マイ・バック・ページ』


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(2011/06/08)
ミト from クラムボン、きだしゅんすけ 他

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 立川シネマシティで『マイ・バック・ページ』を観た。川本三郎の同名青春記を、山下敦弘が映画化した作品。

■映画公式サイト→ http://mbp-movie.com

 川本さんの原作は、私がこれまでに読んだすべての本の中で五指に入るほど好きな作品。私は2年前に川本さんと鈴木邦男の対談集で映画化が進行中だと知り、以来完成を待ちわびていた。

■関連エントリ→ 川本三郎・鈴木邦男『本と映画と「70年」を語ろう』レビュー

 で、ようやく観た結果……上出来の映画化だと思った。原作ファンの私も納得。これは青春映画の傑作だ。

 まず、舞台となる1970年代初頭の東京の再現がパーフェクトである。とか言って、私もそのころの東京を肌で知っているわけではないのだが、少なくとも私が知識として知っている1970年代初頭は、隅々まで見事に再現されている。

 山下敦弘と脚本の向井康介は、原作をただなぞるような真似はしていない。随所に潤色を加えつつ、しかも原作のテイスト、エッセンスはちゃんと抽出している。「本の映画化はこういうふうにやるもんだよ」というお手本のような仕事ぶりである。

 過去の山下敦弘作品にあったオフビートなユーモアは影を潜めており(随所で隠し味にはなっているが)、終始シリアスなので、山下ファンは戸惑いを感じるかもしれない。しかし、私はこれこそ山下の代表作になり得るものだと思った。

 俳優陣もみんないい。とくに、新聞記者たちや刑事たちのリアリティはすごい。映画の中の作り物のブンヤ、デカというより、本物の匂いがする。まるでドキュメンタリーのようだ。
 主演の2人もいい。松山ケンイチが演じる虚言癖のある“ニセ革命家”梅山のキャラクターは原作よりも大幅に肉付けされているが、その肉付けも成功している。

 妻夫木聡が泣くラストシーンも素晴らしい。『ジョゼと虎と魚たち』のラストもそうだったが、彼は泣く場面で素晴らしい演技を見せる俳優だと思う。
 今作の場合、途中で「私はきちんと泣ける男の人が好き」という印象的なセリフが出てくるので、それがラストシーンの伏線になっていて、いっそう印象的だ。
(終盤、新聞社を懲戒解雇された主人公が映画評論家となって試写会に行く場面では、妻夫木くんが川本三郎に見える。いとをかし、である)

 エンディングに流れるのは、ボブ・ディランの「マイ・バック・ページ」(原作のタイトルもこの曲に由来)を真心ブラザーズと奥田民生が一部和訳して歌った曲。これがまたじつによい。

 ……と、観てきた直後の勢いで絶賛してしまったが、1つ言っておきたいのは、この映画は原作の魅力の半分しか伝えていないということ。
 というのも、映画の副主人公・梅山をめぐるドラマは原作では後半に出てくるものであり、前半はもっとリリカルな60~70年代グラフィティだからである。

 この原作を映画化する場合、後半の事件に的を絞るのは当然で、前半に出てくるさまざまなエピソードまで詰め込んだらストーリーがグチャグチャになってしまう。だからこの脚本の方向性は正しいのだが、この映画を観ただけで原作を知ったつもりになられてしまったら、ちょっと困る。この映画には取り上げられていない前半部分(※)に、いいエピソードが目白押しなのだから。
 この映画が気に入って、しかも原作をまだ読んでいない人には、鈴木いづみ、永島慎二、コルトレーン、鶴田浩二などという時代のアイコンが続々登場する前半部の素晴らしさをぜひ味わってほしい。

※ただし、前半部分のうち、保倉幸恵(劇中では倉田眞子)をめぐるエピソードはこの映画で印象的に用いられている。当時『週刊朝日』の表紙モデルをしていた保倉幸恵は、編集部で最も若い記者だった川本さんと親しくなった。彼女は1975年、22歳で鉄道自殺を遂げている。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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