辰巳ヨシヒロ『大発掘』


大発掘大発掘
(2003/09)
辰巳 ヨシヒロ

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 辰巳ヨシヒロの『大発掘』(青林工藝舎/1680円)を購入。
 近年再評価著しい、「日本のオルタナティヴ・コミックの第一人者」たる辰巳の復刻短編集。2003年に刊行されたものだが、収録された13編はすべて1970年代(おもにその前半)に描かれたものだ。

 辰巳のこの時代の短編というと、私は小学館文庫から出ていた2つの短編集(『コップの中の太陽』と『鳥葬』)を昔読んだことがある。これは傑作揃いだったが、いまでは入手困難であるようだ。ただ、この『大発掘』の前に出た『大発見』という復刻短編集は、名作「グッドバイ」など、何編かが『コップの中の太陽』『鳥葬』の収録作品と重なっている。

 この『大発掘』は、『大発見』の落ち穂拾いというか、あの本に入らなかった短編を集めたもの。収録作の大半は、これまで単行本未収録であったという。

 絵はいかにも「昔の劇画」という感じで古臭くて野暮ったいし、ストーリーはどれもむちゃくちゃ暗くて救いがない。あとがきで辰巳自身が書くとおり、「臆面もなく選りによって、よくもこんな暗い作品ばかり羅列したものだ」という感じの一冊である。

 だが、収録作のうち何編かは心に突き刺さるような凄みのある佳編で、「よくぞ発掘してくれた」と版元に感謝したい気持ちになった。

 主人公たちの大部分は、いまでいう「負け組」もしくは「非モテ」。さもなければ、重い十字架を背負ったような過去を持ち、半分死んだようになって生きている人物である。彼ら彼女らが社会の底辺で這いずり回り、のたうち回るさまは、むしろいまの時代の気分にこそしっくり合う。
 「地獄」「念仏レース」「地下道ホテル」「手のひらの街」「娼婦の戦記」の5編はとくに傑作だ。

 どれほど暗いか、例を一つ挙げる。

 「地下道ホテル」は、地下鉄の地下道で暮らすホームレス(という呼び方は当時まだ一般的でなく、「浮浪者」と表記されている)たちの物語。
 ホームレスの一人は、ゴキブリに「アケミ」という名前をつけて飼っている。それが生き別れた娘の名であることを、ある日、仲間のホームレスは知る。
 「ゴキブリのオッさん」と呼ばれるそのホームレスが病死したとき、仲間は彼の娘にそれを知らせようとする。だが、やっと見つけた娘は、ようすのいい若い男と仲睦まじく話をしていた。仲間は声をかけられず、その場に崩れ落ちて涙する。
 ……とまあ、そのように暗い話ばかりなのだが、しかししみじみとよいのである。 
 
■関連エントリ→ 辰巳ヨシヒロ『劇画暮らし』レビュー

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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