ジョージ秋山『ばらの坂道』


ばらの坂道(下) (ジョージ秋山捨てがたき選集第8巻)ばらの坂道(下) (ジョージ秋山捨てがたき選集第8巻)
(2011/04/30)
ジョージ秋山

商品詳細を見る


 ジョージ秋山の幻の作品『ばらの坂道』(青林工藝舎/上下巻・各1575円)が復刊されたので、購入して読む。

 1971年から72年にかけて、『週刊少年ジャンプ』に連載された作品。「子ども時代に読んだトラウマ・マンガ」に挙げる人も多い。私も7~8歳のころ連載をリアルタイムで読んだが、トラウマになるほどはっきりとは記憶に残っていなかった。「暗いマンガだなあ」と感じたことは覚えているけど……。

 ジョージ秋山は、1970年に『銭ゲバ』と『アシュラ』という問題作をつづけざまに発表。その後、『アシュラ』の打ち切り事件を経て突如「引退」を宣言。しかし、翌年には引退を撤回し、現役復帰。復帰第1作となったのがこの『ばらの坂道』であった。ちなみに、あの傑作『ザ・ムーン』は、『ばらの坂道』の次の長編にあたる。

 ジョージ秋山がまだ若く、才気にあふれ、マンガ家人生でいちばん先鋭的だった時代が70年代前半なのである。
 そして、この『ばらの坂道』は、『銭ゲバ』『アシュラ』と並んで彼の3大問題作の一角をなすものといってよい。
 75年に一度だけ単行本化されているものの、その後は長年復刊されなかった。今回の復刊はじつに36年ぶりのことだ。

 なぜ「幻の作品」と化してきたといえば、「きちがい」「かたわ」などの差別表現が頻出するうえ、現時点から見れば精神障害に対する誤解に基づく描写も散見されるからである。
 ただ、本書の解説によれば、一部で本作を「発禁マンガ」と表現する向きがあるのは間違いで、発禁になったこともなければ人権団体等から抗議を受けたこともないという。長らく復刊されなかったのは、出版サイドの自主規制だったのだ。

 主人公の少年・土門健は、発狂してしまった母親の面倒を見ながら暮らしている。
 父は母の発狂を機に、家族を捨てて蒸発。屋台のおでん屋をやって家族3人の暮らしを立てていた祖父も、交通事故死を遂げる。しかも、祖父の死と時を同じくして、母が健の同級生の少女の脚をツルハシで刺し、不具にしてしまう事件が起きる。
 いっぽう、祖父を死なせた車に乗っていたのは大富豪で、慰謝料として健に2000万円を差し出すのだった。

 ……序盤の展開はざっとそんな感じ。あまりに救いがなく、また時代がかった大仰な展開ではある。しかし、実際に読んでみると、得体の知れないパワーが全編にみなぎっていて、読み出したら止まらない迫力である。
 版元のサイトに無料試し読みコーナーがあるから、興味のある向きはちょっとのぞいて見てほしい。

■『ばらの坂道』上巻試し読み
■『ばらの坂道』下巻試し読み

 評論家の呉智英が上巻に解説を寄せていて、その中で呉は次のように書いている。

 ジョージ秋山が『ばらの坂道』で描こうとした主題は「業」である。というよりも、ほかの作品でも「業」は主題として描かれることが多く、マンガ家ジョージ秋山を貫く主題だとも言えるだろう。



 たしかに、この『ばらの坂道』と『銭ゲバ』『アシュラ』は、「人間の業」三部作ともいうべき内容である。
 健は狂った母をもったことに苦悩し、母が不具にしてしまった少女への罪の意識に苦悩する。
 慰謝料として2000万円をくれた大富豪は、病死するにあたって広大な土地を健に遺産として贈り、そのことが健の苦悩をいっそう複雑なものにする。彼は遺産を活かす道として、その土地に「理想の村」を建設しようとするのだが……。

 私は本作を読んで、「ジョージ秋山はこの時期、本気で文学に闘いを挑んでいたんだな」と思った。ドストエフスキーやトルストイが挑んだテーマを、マンガでやろうとしていたのである。
 その挑戦が成功しているとは、残念ながら言えない。終盤の健の死があまりに唐突であるなど、ストーリーにはあちこち綻びが見えるし、表現としてもかなり拙い。しかしそれでも、大テーマに本気で挑んだ若きジョージ秋山(当時まだ20代)の熱と志に、私は拍手を送りたいと思う。

 なお、下巻に阿部幸弘(精神科医・マンガ評論家)が寄せた解説が、力が入っていて素晴らしい。一読の価値がある。

関連記事

トラックバック

コメント

コメントを残す

Secret


Guide 

   →全記事インデックス

Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

Counter 

メールフォーム

★私にご用の方はここからメールを下さい。

お名前
メールアドレス
件名
本文

最近の記事

マイ「神曲」ベスト100

カテゴリー

ブクログ・MY本棚

タイトルの由来

●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

Archives

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
39位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
27位
アクセスランキングを見る>>