村上春樹『雑文集』


村上春樹 雑文集村上春樹 雑文集
(2011/01/31)
村上 春樹

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 昨日、某テレビ局の朝の人気番組から突然出演依頼があって、ビックリ。
 ディレクターだという人からの連絡で、「こんどジャクリーン・ケネディのことを取り上げたいので、その中でコメントしてほしい」というのである。
 私が個人サイトで書いた「女の名セリフ」でジャクリーンを取り上げた(→この記事)のを見て、声をかけてくれたのだそうだ。しかし、私はいかなる意味でもジャクリーンについての「専門家」ではないし(アメリカ政治・文化の専門家でもなければ、セレブの専門家でもない)、テレビでエラソーにコメントなどしたら怒られそうなので、おことわりする。

 せっかく声かけてくれたのにこんなことを書くのはアレだけど、「テレビ番組ってずいぶんいいかげんに作られてるんだなあ」と思ってしまった。個人サイトで記事を書いているというだけでコメントさせようとするなんてね。ネットでパッと検索して、「あっ、コイツでいいや」って感じかな(笑)。

 

 村上春樹著『雑文集』(新潮社/1470円)読了。
 
 村上春樹が1979年のデビューから昨年までの間に書いた単行本未収録(一部は未発表)のエッセイ、コラム等から、村上自身がセレクトしたもの。

 「村上春樹の新刊なら、いまはどんなものでも売れるから」というエゲツナイ皮算用で出した「落ち穂拾い」的一冊ではある。また、安西水丸の娘の結婚式に寄せた祝福メッセージなんてものまで入っていたりして、どうでもいい雑文も少なくない。

 だがそれでも、収められた69編の中には拾い物も多い。
 本書の読みどころを、私が選ぶなら……。

 まず、冒頭を飾る「自己とは何か(あるいはおいしい牡蠣フライの食べ方)」。
 これは、村上が小説家としての基本的心構えを表明した文章で、今後の村上春樹研究には欠かせない一文になるであろう内容だ。

 次に、オーディオ雑誌『ステレオサウンド』のロング・インタビューを再録した「余白のある音楽は聴き飽きない」。
 これは村上春樹が子どものころからの音楽遍歴を語ったもので、彼の音楽観の的確な要約になっている。いうまでもなく、音楽はハルキ文学の重要な要素であるから、ファンなら必読といえる一文。無署名だが、ライターのまとめ方もうまい。

 また、ドアーズのジム・モリソンについて書いた「ジム・モリソンのソウル・キッチン」もよい。音楽エッセイ集『意味がなければスイングはない』に入れてもよかった気がする名文だ。

 それから、『アンダーグラウンド』執筆当時に書かれたという「東京の地下のブラックマジック」。これは、村上のオウム真理教についての思索を凝縮した内容である。
 アメリカの雑誌から依頼されて書かれたもので、なんと、ボツをくらっていままで未発表だったという。村上春樹の原稿をボツにするなんて、日本では考えられないことだ。

 この文章で私が最も強い印象を受けたのは、次の一節。

 オウム真理教に帰依した何人かの人々にインタビューしたとき、僕は彼ら全員にひとつ共通の質問をした。「あなたは思春期に小説を熱心に読みましたか?」。答えはだいたい決まっていた。ノーだ。彼らのほとんどは小説に対して興味を持たなかったし、違和感さえ抱いているようだった。



 宮内勝典さんがオウム信者たちについて、“彼らがもっと文学に触れていたら、オウムに走ることもなかったのではないか”と書いておられた(うろ覚えだが)のを思い出した。
 この「東京の地下のブラックマジック」は、オウム事件をフィルターに村上春樹が「文学の力とは何か?」を改めて思索した一文として、興味深い。

 ほかにも楽しめる文章は多く、ファンなら買って損はない一冊。平均的単行本の倍のページ数なのに価格は安く、装画・挿画は和田誠と安西水丸が2人で手がけているというゴージャスぶりだし。

 
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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