豊崎由美『ニッポンの書評』


ニッポンの書評 (光文社新書)ニッポンの書評 (光文社新書)
(2011/04/15)
豊崎 由美

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 豊崎由美著『ニッポンの書評』(光文社新書/777円)読了。

 ありそうでなかった、書評家による書評論である。
 なぜなかったかといえば、「売れないから」だろう。書評集でさえ売れない(だから、書評を本にまとめてもらえる書評家もごく一部)のに、ましてや書評論なんて……と出版社が二の足を踏むのは当然だ。

 ではなぜこの本が出たかといえば、「書評ブログ」(当ブログも広い意味ではその一つ)が激増するなど、ネット上で本の感想を述べ合う習慣が定着して、「一億総書評家時代」が到来したからだろう。
 屈指の売れっ子ブックレビュアーであるトヨザキは、書評論を書くにふさわしい。

 章立ては、以下のとおり。

第1講 大八車(小説)を押すことが書評家の役目
第2講 粗筋紹介も立派な書評
第3講 書評の「読み物」としての面白さ
第4講 書評の文字数
第5講 日本と海外、書評の違い
第6講 「ネタばらし」はどこまで許されるのか
第7講 「ネタばらし」問題日本篇
第8講 書評の読み比べ―その人にしか書けない書評とは
第9講 「援用」は両刃の剣―『聖家族』評読み比べ
第10講 プロの書評と感想文の違い
第11講 Amazonのカスタマーレビュー
第12講 新聞書評を採点してみる
第13講 『IQ84』一・二巻の書評読み比べ
第14講引き続き、『IQ84』の書評をめぐって
第15講トヨザキ流書評の書き方
対談 ガラパゴス的ニッポンの書評―その来歴と行方



 私はライターを始めて以来ずっと、拙いながらも書評を書いてきた(もちろん原稿料をいただいて)。「書評歴」は四半世紀近いことになる。ゆえに本書も非常に興味深く読んだ。

 タイトルを見ると、過去・現在の日本の書評が概観された本のような印象を受ける。巻末の大澤聡(メディア史研究者)との対談にはそういう側面もあるが、全体としてはそうではない。むしろ、トヨザキ個人の書評観をさまざまな角度から述べた内容になっている。トヨザキが考える、よい書評・悪い書評の基準を示した本なのである。

 『文学賞メッタ斬り!』シリーズで披露した、トヨザキ流の笑える毒舌は、本書ではかなり控えめ。ダメな書評をやり玉にあげる箇所もないではないが、いつもより遠慮ぎみ。まあ、小説家や文学賞選考委員を笑い飛ばすのとは違って、相手が同業者では筆鋒が鈍るのもやむをえまい。

 さりとて、けっしてつまらない本ではない。売れっ子ライターだけあって、読者を退屈させない仕掛けが随所に凝らされている。新聞各紙の書評を五段階評価(ただし、一週間分のみ)した章とか、アマゾンのカスタマー・レビューにかみついて見せた章など、読み物として楽しめる章が多いのだ。

 日本の“書評業界”の舞台裏を明かし、その改善も提言するなど、業界裏話集としても面白い。
 本書によれば、トヨザキでさえ「仕事の八割ぐらいは書評ですけど、残りはライター仕事」で、書評専業ではないのだとか。だとすれば、書評だけで生計を立てている字義通りの「書評家」は、もはや日本にはいないのではないか。いたとしても10人以内くらいだろう。ちなみに私の場合、書評の仕事は全体の1割程度。

 本書で披露されたトヨザキの書評観に対して、私は総論賛成・各論反対といったところ。
 書評を批評(文芸評論)よりも一段低くとらえる傾向に異を唱え、「書評も立派な文芸の一ジャンル」と主張する点や、自分の読書域の広さと賢さを自慢する書評ほどイヤなものはない、という指摘などには、激しく同意。

 ただ、実際に挙げられた書評の例を見ると、トヨザキと私では優れた書評の基準が少し異なるようだ。トヨザキは作家・小野正嗣が書いた『ジーザス・サン』の書評を口を極めて絶賛し、「皆さん、これが書評のビンテージです」とまで書いて全文引用しているのだが、私には大した書評だとは思えなかった。

 あと、本書は“ネタばれ書評はよくない”ということをくどくどしく述べすぎだと思う。「ネタばらし」についての章が2つもあるうえに、第13、14講でも、黒古一夫が書いた『IQ84』のネタバレ書評をやり玉にあげているのだ。ちょっとしつこすぎ。

 ……と、ケチをつけてしまったが、書評好きなら十分楽しめる本である。書評執筆のコツを披露する実用的側面は薄いが、それでも、書評ブログをやっている人なら必読といってよい。

■参考→ 対談 豊崎由美×永江朗 「書評ほどオイシイ商売はない!?」

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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