鈴木智彦『潜入ルポ ヤクザの修羅場』


潜入ルポ ヤクザの修羅場 (文春新書)潜入ルポ ヤクザの修羅場 (文春新書)
(2011/02/17)
鈴木 智彦

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 鈴木智彦著『潜入ルポ ヤクザの修羅場』(文春新書/893円)読了。

 少し前に『誰も書けなかった日本のタブー』(宝島社文庫)という短編ルポ集を読んだとき、当ブログのレビューで私はこう書いた。

 参加している書き手の力量にバラツキがあって、かなり玉石混淆。
 鈴木智彦という人が書いた3本の記事が、いずれも突出して面白い。ヤクザ系ルポをよく書いている人らしいのだが、「よくここまで書くなあ」という感じで、スゴイ迫力。



 以来注目していた鈴木の新著である。
 じつは少し前にこの人の『我が一家全員死刑』という本も読んだのだが(「大牟田4人殺害事件」のドキュメント)、これはつまらなくて半分ほど読んで挫折。だが、本書はよい。バツグンの面白さで、一気読みしてしまった。

 どこにでもあるヤクザ・ノンフィクションのようなタイトルだが(文春新書は総じてタイトルづけがヘタ)、そうではない。これは、極道ジャーナリズムにどっぷり漬かってきた著者が、その舞台裏を赤裸々に明かした希有な一書なのである。
 よって、内容を正確に反映したタイトルにするなら『ヤクザ・ジャーナリズムのウラ側、全部見せます!』といったところか。あるいは、本書の帯の片隅に記された言葉――「暴力団専門ライターの『わが闘争』」のほうが、タイトルにふさわしい。

 「極道ジャーナリズム」といったって、あの世界に『朝日新聞』などと同じ意味のジャーナリズムがあるはずもない。『実話時代』(著者はここの編集者出身)などの実話誌がそのおもな舞台だが、それらは実質暴力団の広報誌的側面が強いわけだし……。
 だがそれでも、さまざまな制約のなか、ヤクザ専門のフリーライターである著者が身体を張って限界ギリギリの記事を書きつづける姿勢には、熱いジャーナリスト魂を感じずにはおれない。本流のジャーナリズムとは拠って立つモラルも方法論も違えど、ここにもやはり一つのジャーナリズムが脈動しているのだ。

 カバーそでに記された内容紹介が本書の魅力を簡潔に表しているので、引用する。

 山口組最高幹部を次々に逮捕した警察の「頂上作戦」に密着し、歌舞伎町のヤクザマンションに事務所を構え、愚連隊の帝王を居候させ、関西の手本引きの賭場に潜入、九州の抗争事件を追いかける。取材歴15年の専門ライターだから書けるヤクザの生態、行動原理、暴力。



 ここに出てくる「歌舞伎町のヤクザマンション」とは、ヤクザの事務所がたくさん入った“特殊マンション”で、劇画『殺し屋1』の主舞台となったマンションのモデル。そんなオソロシイところに、著者は取材のネタの宝庫だということで、あえて入居するのだ。その顛末を記した第一章「ヤクザマンション物語」だけでも、その気になれば優に一冊になり得るものだ。

 そのあとの各章――「ヤクザ専門誌の世界」「愚連隊の帝王・加納貢」「西成ディープウエスト」「暴力団と暴力団専門ライターの未来」――もそれぞれ面白く、内容が非常に濃い一冊。

 さりとて、一方的なヤクザ礼賛には陥っていない。また、この手の本にままある左翼的偏り(「ヤクザも俺たちも、反権力の立場を同じくする同志だ」みたいな)が微塵もないところもよい。仕事柄、ヤクザに「殺すぞ」と脅されたりするのが日常茶飯事の日々を送りながらも、著者の筆致にはどこか乾いたユーモアがあり、読後感はむしろ爽快だ。

 「いい・悪い」を言えば、ヤクザは悪に決まっている。それでも、取材対象に食い下がっていく著者の執念には脱帽せざるを得ない。大マスコミでふんぞり返っているジャーナリスト先生のうち、いったい何人がここまで情熱をもって仕事をしているだろう。

 暴力団専門ライターとしての歩みを余さず明かした本書は、著者にとっても“人生でただ一回書ける本”であり、量産のきくものではあるまい。
 著者は終盤で、自らの執筆活動の主舞台であるヤクザ専門誌にいかに未来がないかを書いている。この著者なら他分野でもひとかどの仕事をなし得るはずで、もっと幅広いノンフィクションの世界に羽ばたいてほしい。

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  • 2012-10-08│09:58 |
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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