大鶴義丹『昭和ギタン』『その役、あて書き』


昭和ギタン-アングラ劇団の子と生まれて昭和ギタン-アングラ劇団の子と生まれて
(2005/12/10)
大鶴 義丹

商品詳細を見る


 今日は、都内某所で俳優・作家・映画監督の大鶴義丹さんを取材。
 義丹さん(「大鶴さん」と呼ぶより、このほうがしっくり。取材でもそう呼ばせていただいた) ももう40代なのに、若々しくてさわやか。カッコいい中年というより、むしろ好青年の面影をそのまま残している感じ。

 準備として、2005年に刊行された自伝エッセイ『昭和ギタン――アングラ劇団の子と生まれて』(バジリコ/1575円)と、先月刊行された小説の最新作『その役、あて書き』(扶桑社/1575円)を読んで臨んだ。

 2冊とも、たいへん面白かった。
 とくに『昭和ギタン』は、つめ込まれたエピソードの数々がどれも印象的で、このまま映画にできそうなほど。 なにしろ、唐十郎の「状況劇場」の栄枯盛衰が、劇団とともに幼・少年期をすごした義丹さんのまなざしを通して語られるのだから、つまらないわけがない。これは、一つの家族、一人の少年の物語であると同時に、「状況劇場」という“演劇共同体”の物語でもあるのだ。

 エピソードの一つを紹介する。
 義丹さんが小学校低学年のころ、「仮面ライダー」の大ブームが起こり、父親の唐十郎にせがんで、後楽園遊園地の「仮面ライダーショウ」に連れて行ってもらう。ところが、唐十郎は次のように言い、一緒に中に入ろうとはしなかったのだという。

「父ちゃんは唐十郎という演劇人として、あのようなものを観ることはできないんだ。父ちゃんはタバコを吸って外で待っているから、ギタン一人で観てきなさい」



 そして、それから30年後――。親となった義丹さんは、お嬢さんの小学校の運動会を観に行ったとき、父兄参加の「借り物リレー」を、「大鶴義丹としては、そんな生温いモノには参加できない」と断固拒否したのだという(笑)。

 まだ小学校低学年の息子に対してさえ、まるで大人に対してするように、演劇人としての矜持を説いた父。そして、娘に対してそのふるまいをなぞる義丹さんの行動ににじむ、父へのリスペクト……心温まるエピソードではないか。
 このような印象的なエピソードが、目白押しの一冊なのである。

 『その役、あて書き』は、40代バツイチの映画監督と若い女優の恋を描いた作品。
 といっても、『スプラッシュ』や『湾岸馬賊』など、義丹さんの若手作家時代のキラキラした青春小説とはかなり趣が違う。映画制作の現場や芸能界の赤裸々な裏事情がすこぶるリアルに描写された、渋い大人のエンタテインメントになっているのだ。
 中編小説といってよい長さなのですぐに読み終わるが、ディテールは濃密で、登場人物に重いリアリティがある。いわば、中年男性のための“再・青春小説”という趣。とくに、映画好きなら愉しめるはずだ。

関連記事

トラックバック

コメント

コメントを残す

Secret


Guide 

   →全記事インデックス

Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

Counter 

メールフォーム

★私にご用の方はここからメールを下さい。

お名前
メールアドレス
件名
本文

最近の記事

マイ「神曲」ベスト100

カテゴリー

ブクログ・MY本棚

タイトルの由来

●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

Archives

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
43位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
30位
アクセスランキングを見る>>