『野獣死すべし』(1959)


野獣死すべし オリジナル・サウンドトラック野獣死すべし オリジナル・サウンドトラック
(2008/05/23)
サントラ

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 ケーブルテレビで観た『野獣死すべし』の感想を。

 同名の原作は、言わずと知れた大藪春彦のデビュー作(にして出世作)。過去何度も映画化されており、そのうち最も有名なのは松田優作主演の角川映画版(1980年)だろう。

 優作版『野獣死すべし』も私は好きだが、あれは優作と脚本の丸山昇一が確信犯的に原作を換骨奪胎した映画であり、原作とはまったく別物と考えたほうがよい。じっさい、原作者の大藪はあれを観て激怒したと言われる。

■関連エントリ→ 『蘇る金狼』『野獣死すべし』(松田優作版)レビュー

 対照的に、最初の映画化となったこの1959年版は、細部こそアレンジしてあるものの、ストーリーといい、主役のキャラ造型といい、全体のムードといい、すべて原作に忠実。原作の愛読者にも納得のいく仕上がりとなっている。

 優作版『野獣死すべし』が公開されたころ、大藪春彦にかぶれた高校生だった私(そんな時期もあったのだよ)は、傑作だという噂の1959年版を観たくてたまらなかった。それから30年の時を経てやっと観ることができたのである。長らくビデオ化・DVD化もされなかったと記憶しているが、2006年に大藪没後10年を記念してDVD化されたそうだ。

 こちらの映画で主人公・伊達邦彦を演ずるのは若き日の仲代達矢。監督は須川栄三で、須川はのちに続編『野獣死すべし 復讐のメカニック』(『野獣死すべし』の第2部「復讐編」が原作で、主演は藤岡弘、)も監督している。

 原作の伊達邦彦のイメージにいちばん近いのは、優作でも藤岡弘、でもなく、ましてや断じて木村一八ではなく、この映画における仲代達矢であろう。

 モノクロの映像が渋く、アングルなどもいちいち凝りに凝っており、すこぶるスタイリッシュな映画。和製フィルムノワールの傑作だと思う。

 原作では伊達邦彦は大学入学金強奪をしたあと、まんまと逃げおおせてハーバードに留学する。
 この映画版もハーバードに留学するために機上の人となるところで終わるのだが、『太陽がいっぱい』よろしく、邦彦の完全犯罪のわずかな綻びに刑事が気づくという場面がつけくわえられている。この蛇足のせいで、ピカレスクロマンが台無しだ。

 原作の最後はこんな文章で終わっている。

 顔は銃弾で吹っとばされ、ほとんど白骨と化した死体を呑んだセメント樽が、東京湾の深みで朽ちている頃、ハーバードの食堂では、広重がフランス後期印象派、特にゴッホやルノアールに与えた影響について、邦彦は瞳をキラキラ輝かせながら、数人のフランス人留学生と語り合っていた。



 ううむ、痛快。ピカレスクはこうでなくちゃね。
 まあ、昭和30年代中盤という時代背景を考えれば、アプレゲールの青年が完全犯罪を成功させるようなケシカラン映画を作るわけにはいかなかったのであろう。

 そういえば角川映画版の『蘇る金狼』も、ダーティー・ヒーロー朝倉哲也がよりによって女に刺し殺されてしまう甘々なラストにしたために、大藪ファンから大いに不評を買ったものだ(原作ではもちろんまんまと海外に逃げおおせる)。

 ラストが難ありとはいえ、半世紀前の東京の街並を観ているだけでもキッチュで愉しいし、原作ファンなら一見の価値ありだ。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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