夢を操る―マレー・セノイ族に会いに行く (講談社文庫) (1996/11) 大泉 実成 商品詳細を見る |
大泉実成著『夢を操る――マレー・セノイ族に会いに行く』(講談社文庫/612円)読了。
ノンフィクション作家の著者が、「夢をコントロールする」と言われてきたマレーシアのセノイ族の村を探訪し、「ほんとうに彼らは夢コントロールの文化をいまも持っているのか?」を確かめた本。
本書の元になった『SPA!』での連載を私はリアルタイムで読んでいたが、当時は「つまらない連載だなあ」と思っていた。が、私自身が夢コントロールに興味を抱いているいま読んでみたら、じつに面白かった。
セノイ族の夢コントロールの虚実を探るのがテーマのはずなのに、本書の記述はしばしば脱線する。セノイの変わった料理を食べてみたらうまかったとか、村の景色がどうとか、テーマと関係ないことを詳述しすぎ。むしろ紀行文のほうがメインで、その合間に夢コントロールについても述べられているという感じなのだ。それに、文章がおちゃらけすぎ。
まあ、あまり無味乾燥な論文調で書かれるよりは、本書のようなくだけた調子のほうが読みやすくはある。
それに、脱線が多いとはいえ、著者は要所はきっちり締めている。セノイ族の生活にいまも夢コントロールがしっかり根付いているという証拠をちゃんとつかんでレポートしているのだ。このへんはさすが。
本書の第3章(終章)「マレー獏との対話」は全体のまとめ・総論になっているので、脱線部分を飛ばして結論を知りたいという向きはここだけ読んでみるとよい。その中で、著者は次のように書いている。
セノイが僕にしてくれた「夢指南」は、「夢のサイン」の話を除けば、次の二つに集約できると思う。
①夢の中では意識して積極的であるようにしなさい(夢というのは、ちょうど学校の教室のようなものだから、積極的に学ぶようにしなさい)。
②夢の中で出会った相手とは、できるだけ友だちになりなさい。
このふたつを守れば、夢の中の相手は、有用な情報やパワーを与えてくれる、というのが彼らの考え方だった。
セノイ族の「夢コントロール」を欧米に初めて紹介したのは、アメリカの文化人類学者キルトン・スチュアートである。夢の研究に取り組んでいる心理学者パトリシア・ガーフィールド(私が先日読んだ『夢学』の著者)も、自らもセノイ族の村でフィールドワークを行っているが、基本的にはスチュアートの研究に依拠している。
大泉も、スチュアートの論文やガーフィールドの著作を読んでセノイ族に興味を抱いたのである。
ところが、大泉がセノイの村への旅から帰ったころ、「セノイの夢理論はでっちあげだ」と主張する本が邦訳刊行される。それがウィリアム・ドムホフの『夢の秘法』で、大泉も第3章で同書に言及している。それによれば、「ドムホフ自身は実際にセノイと会ったこともなく、反スチュアート派の論文をもとに『でっち上げ』と述べているだけ」だとのこと。どう見ても、実際にセノイ族の村で(短期間にせよ)暮らした大泉の主張のほうに分がありそうだ。
本書は、夢研究の分野において、学術的にも価値あるレポートだと思う。
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