小松成美『人の心をひらく技術』


人の心をひらく技術人の心をひらく技術
(2010/09/08)
小松成美

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 小松成美著『人の心をひらく技術――仕事と人生が変わる「聞き方」「話し方」』(メディアファクトリー/1260円)読了。

 売れっ子ノンフィクション作家が、これまでやってきた仕事をふまえて、「人の心をひらく」話の聞き方を説いた本。巻末に構成者のクレジットがあるので、小松の話をライターがまとめたものだろう。

 中田英寿、イチロー、中村勘九郎、YOSHIKIなど、各界著名人への取材の舞台裏が随所で語られ、それらはいずれもたいそう面白い。たとえば、勘九郎とのこんなやりとり。

「私など、本来は歌舞伎を書く資格などないかもしれないのですが……」
 私がそう言ったとき、勘九郎さんは突然怒り出してしまいました。
「冗談じゃないよ! どんな資格がいるって言うんだよ。役者以外、みんな素人なんだからさ、いちいち謝らなくていいんだよ。それにね、俺は『自分は歌舞伎のプロです』なんて言って原稿書いている奴、ぜんぜん認めてないからね」
 その言葉が私に対する優しさだということは、すぐにわかりました。



 本書は取材裏話集であると同時に、ライター小松成美の成長物語(サクセス・ストーリーではなく)としても読める。OLから突然ライターに転身し、蓄積ゼロからスタートした彼女が、押しも押されもしない一流ライターになっていくまでの道筋が、くっきりとたどられているのだ。

 後半、「人の心をひらく」技術が具体的に説かれた部分には、「何をあたりまえのことを」と思えるアドバイスも少なくない。そのへんは読み飛ばしてしまったが、総じて傾聴に値するアドバイスが多く、ライターおよびライター志望者なら必読の内容となっている。

 「人の心をひらく」ために小松が重ねてきた努力は、同じライターとして頭が下がるほどのものだ。たとえば、彼女は取材前に質問を練ったあと、その質問を実際にしてみるところを鏡の前でくり返し練習するのだという。

 北京オリンピックで銀メダルを獲得したフェンシングの太田雄貴さんへのインタビューでも、インタビューメモを作成し、鏡の前での練習をして臨みました。フェンシングという競技には知らない専門用語が多く、またフェンシングの動作を言葉で伝えることも不慣れです。質問や知りたい技術について紙に書き出し、ある程度すらすら言えるまで練習しました。



 取材準備として資料を読み込み、質問を練るところまでは、ライターなら誰でもやる。が、鏡の前でこんな練習までやるライターを、私はほかに知らない。

 また、インタビューの最中、「何だかちょっとリズムが合わないな」と感じたときに、彼女は「相手の呼吸のリズムを計ってみる」のだという。そして、呼吸のリズムを「ただ合わせるのではなく、コントロールする」のだと……。
 取材中の「相手の呼吸のリズム」なんて、私は考えたこともなかった。もはや名人芸の域だと思う。
 
 インタビューイから「手品のように言葉を引き出す」小松成美の仕事ぶりは、「小松マジック」とも呼ばれる。しかしそのマジックは、持って生まれた才能(もあるだろうが)というより、彼女が積み重ねてきた努力の賜物なのである。そのことを思い知らされる一冊。

 もちろん、本書はライター入門ではなく、広くビジネスに役立つ本だという体裁をとっている。そうしなければ売れないからだが、ライターやカウンセラーなど「人の話を聞く仕事」以外の人が読んでも、さして有益ではないと思う。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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