石井光太『感染宣告』


感染宣告――エイズなんだから、抱かれたい感染宣告――エイズなんだから、抱かれたい
(2010/12/01)
石井 光太

商品詳細を見る


 昨日までの3日間、大津、彦根など、滋賀県各地で取材。
 県内を車であちこち移動していると、琵琶湖の大きさが肌で実感できる。なんかこう、琵琶湖の周辺をぐるぐる回っているという感じなのだ。

 今年の大河ドラマ『江~姫たちの戦国~』(観てないけど)のヒロイン・お江の出身地(いまの滋賀県長浜市にあった近江小谷城で生まれた)ということで、町中が『江』一色。ドラマのポスターがあちこちに貼ってあり、長浜市では「江・浅井三姉妹博覧会」なるものが開催中で、土産物屋に行けばお江ゆかりの菓子がやたら目立つのであった。



 行き帰りの新幹線で、石井光太著『感染宣告――エイズなんだから、抱かれたい』(講談社/1575円)を読了。

 『絶対貧困』『レンタルチャイルド』などの作品で、世界各国の貧困の現実を精力的にルポしてきた石井光太が、初めて国内を舞台にしたノンフィクション。石井にとっては、「海外のディープゾーン取材という得意技を封じても、ノンフィクション作家としてやっていけるか」が問われる、試金石としての意味合いをもつ作品なのだ。

 内容の衝撃度は、海外を舞台にしたこれまでの作品と比べてもまったく遜色なかった。
 エイズという病気が初めて報告されてから30年以上が経ち、私たち一般人もなんとなくエイズについて「わかったつもり」になってしまっている昨今だが、本書に描かれた感染者たちの現実やエイズ治療の最前線は想像を絶するもので、目からウロコが落ちまくった。

 作中、相手の男性がHIV感染者と知りながら結婚し、その後相手が自殺してしまった女性は、次のように言う。
 

「エイズは男女にとっていちばん大切なところに忍び込み、彼らを極限の状態にまで追いつめます。弱さや醜さや高慢さといった負の内面をむき出しにし、人間性を試してくるのです」



 この言葉が象徴するとおり、エイズが基本的に「死なない病気」になったと言われる現在でも、やはり、HIV感染は人生を大きく変えてしまう。本書は、感染によって人生を変えられてしまった人々の軌跡を追ったものなのである。

 エイズが(薬害エイズと母子感染を除けば)セックスを媒介にして感染する以上、本書の内容も必然的に取材対象者の性に立ち入ったものになる。男性同性愛者や性風俗経験者の女性も複数登場する本書は、一昔前なら「HIV感染者への差別を助長する」と批判を浴びたかもしれない。いまだからこそ許される、タブーぎりぎりにまで踏み込んだ内容である。

 タブーといえば、本書でいちばん驚かされたのは、薬害エイズ被害者の男性による述懐。彼によれば、薬害エイズ被害者は、一時期までたいへん女性にモテたのだという。

 世の中というのは皮肉なもので、国との和解が成立してエイズが死なない病気になると、それまでこの問題に熱心だった人たちは急によそよそしく遠ざかっていくようになった。(中略)
 ボランティアに来ていた若い女性たちも同じだった。それまでは国家の犠牲となって殺されていく薬害エイズの被害者に同情し、最後まで苦しみを分かち合いたいと言ってくれていた。中には交際や結婚を求めてきた子だっていた。だが、裁判に区切りがついて、エイズが死なない病気になったとたんに、僕たちと会話をすることがなくなり、周りからいなくなってしまった。死に際の男には言いようのないロマンがある。だが、新しい治療法が確立したとき、僕たちは、ただの障害者年金暮らしの病弱な男に成り下がった。それに愛想をつかしたということなのだろう。
 実際、HIV感染者の男性から、女性に別れを告げられたという話を頻繁に聞いた。



 これは相当にきわどい話だが、私にとっては目からウロコで、人の心の不思議さに唸らされた。

 一読の価値はある力作ノンフィクションだが、一点気になったのは、どぎついエピソードばかりをことさら強調するセンセーショナリズムが、随所に感じられるところ。
 たとえば本書は、HIV感染者の男性同性愛者だけが集う乱交パーティーに、著者が潜入取材する衝撃的な場面で幕を開ける。よりによってこのどぎつい場面を冒頭に持ってくるあたり、著者が「よし、これでつかみはオーケー!」とガッツポーズでどや顔しているところが透けて見えるようで、いささかげんなりさせられる。  

 そうしたセンセーショナリズムはこれまでの石井作品にも多少は感じられたが、本書は日本の話であるだけに印象が生々しく、とくに鼻についた。
 HIV感染者を無垢な被害者としてのみ描き出す紋切り型の社会派ルポになっていないあたり、石井光太らしい作品ではあるのだが……。

関連記事

トラックバック

コメント

コメントを残す

Secret


Guide 

   →全記事インデックス

Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

Counter 

メールフォーム

★私にご用の方はここからメールを下さい。

お名前
メールアドレス
件名
本文

最近の記事

マイ「神曲」ベスト100

カテゴリー

ブクログ・MY本棚

タイトルの由来

●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

Archives

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
43位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
30位
アクセスランキングを見る>>