中村うさぎ『愛という病』


愛という病 (新潮文庫)愛という病 (新潮文庫)
(2010/11)
中村 うさぎ

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 中村うさぎ著『愛という病』(新潮文庫/460円)読了。

 『新潮45』の連載をまとめた最新エッセイ集で、文庫オリジナル。シリアスな内容を予想させる書名だが、実際にはまことに痛快で、笑いにも満ちた一冊だ。

 中村うさぎについて、呉智英は「この人は頭がいい。マスコミがもてはやす女性大学教授連中など較べものにならないほどの優秀な頭脳を持っている」と評したが、本書は彼女の頭のよさが全開になっている印象。

 エッセイ集ではあるが、かなり批評性が強い。連載中に起きた事件(性がらみの出来事がメイン)を取り上げた「時評」としての側面もあるし、女性のセクシュアリティそれ自体に中村ならではの角度で斬り込んだ女性論・性愛論集でもある。
 さらに、中村自身の心に分け入った自己分析としての側面もあり、その種のエッセイでは、自分を突き放して客観的に分析する手際が鮮やかだ。なにしろ、自身の閉経後の心理変化などまで赤裸々に明かしたうえでの捨て身の自己批評なのだから……。
 そして、全編にわたって、「なるほど!」と膝を打つ見事な分析や、世の男ども(私も含む)の身勝手な女性観を突き崩す鋭い批評がちりばめられている。

 たとえば、渋谷区の歯科医一家で浪人中の兄が妹を殺したあの事件を取り上げて、中村は次のように記す。

 自分の価値観を持たず他人の価値観に過剰反応してしまう人々こそが「現代の病」の中核を成している、と私などは思うのである。妹の兄に対する「人マネ」発言(「お兄ちゃんが歯科医になろうとしてるのは、人のマネだ」というもの/引用者注)は、まさに、その核心を突いたものだったのだ。だからこそ、痛いところを突かれた兄は、殺意を抱くほど激怒したのであろう。でも私が兄だったら、「そういうおまえこそ、グラビアアイドルなんか目指してる時点で、他者の評価に自分の存在価値を委ねてるんじゃないか。おまえは自分で思ってるほど自由じゃねーよ」と反論してたね。このふたりは両極端の生き方を志向しているように見えながら、所詮は「同じ穴のムジナ」だったのだ。両者の間の激しい確執と愛憎は、じつに「双方が互いの歪んだ鏡像」であったからに他ならない、という気がする。



 このような、マスコミでしたり顔のコメントを述べる心理学者よりよほど鋭い分析が随所にある。

 さらに、本書には優れたメディア論としての側面すらある。とくに、オヤジ系週刊誌などが女性を揶揄するステレオタイプの記事に対しての反論は、胸のすくような痛快さだ。
 たとえば、山本モナと二岡智浩の不倫(当時、モナは独身)に際しての週刊誌報道を、中村は次のように斬って捨てる。

 今回の「不倫」だって、モナの立場は「飲んでることを知ってて運転させた助手席の友人」であって、「飲酒運転」そのものをやったのは二岡のほうだよ、明らかに。なのにモナばかりバッシングする『週刊現代』の意図は?
(中略)
 何故、モナを「病的尻軽女」と呼んでおいて、二岡を「病的ヤリチン」とは呼ばないのか?
(中略)
 ねぇ、モナが尻軽だからって、あんたに迷惑かけた? つーか、もしモナがリアルに隣に座ってて誘ってきたら、あんたは腹を立てるどころか大喜びでラブホに付いてくクチなんじゃない?
 そこなのである。正義を振りかざしてモナに天誅を加えるようなポーズを取りつつ、その下半身は「尻軽モナ」に半勃起……そんな姿が透けて見えるからこそ滑稽なのだよ、この記事は。つまり、この「過剰反応」としか言いようのない怒りのポーズは、欲情の隠蔽にしか見えないのだ。



 本書で私がいちばん目からウロコが落ちる思いを味わったのは、「ダメ男はなぜモテるか」という一編。これはいわゆる「だめんず・うぉ~か~」となる女性の心理を、「ナウシカ・ファンタジー」なる概念を用いて見事に分析した内容だ。そこには、次のような一節がある。

 私の女友達が、このたび、またもダメ男に引っ掛かった。他人から見ると軽薄で頭の悪いヤリチン男に過ぎないのだが、彼女は「私が彼の最後の女」と言い放ち、周囲がどんなに忠告しても「彼を信じる」の一点張りだ。彼女は「彼」を信じているのではない。自分のファンタジーを信じているのだ。人間ってのは、他者への信頼なんて簡単に放棄できるが、自分のファンタジーにだけは強固に執着する。詐欺師に騙された人間がなかなか気づけないのは、他人を信じるお人よしだからではなく、詐欺師によって与えられたファンタジーを崩せないからだ。
 今にして思えば、ホストにハマった時の私も「ナウシカ」だったのかもしれない。女を利用する事しか知らないホストが自分にだけは本物の愛を捧げてくれる、というベタベタな夢を見たかったのだ。もっとまともな男に惚れなよ、と、何人もの友人たちから言われた。でも、相手がホストじゃないと私の夢は成就しないし、恋愛の手柄感も得られなかったのである。



 ところで、ここに出てくる「またもダメ男に引っ掛かった」「私の女友達」って、きっとくらたまのことですね(笑)。

■関連エントリ→ 中村うさぎ『私という病』レビュー

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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