長谷川博一『殺人者はいかに誕生したか』


殺人者はいかに誕生したか―「十大凶悪事件」を獄中対話で読み解く殺人者はいかに誕生したか―「十大凶悪事件」を獄中対話で読み解く
(2010/11)
長谷川 博一

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 長谷川博一著『殺人者はいかに誕生したか――「十大凶悪事件」を獄中対話で読み解く』(新潮社/1680円)読了。

 臨床心理士にして大学教授の著者は、よく知られた殺人事件の犯人と、心理鑑定などを通じて「獄中対話」をくり返してきた。その対話に基づき、犯行の心理的背景を探っていく本(一部は虐待致死事件)。

 登場するのは、宅間守・宮崎勤・前上博・畠山鈴香・小林薫・金川真大・山口県光市母子殺人事件の「元少年」など。
 秋葉原無差別殺傷事件の加藤智大についての章もあるのだが、10人のうち加藤についてのみ、現時点で著者は面会していない(今後面会を行ないたい旨が記される)。

 版元が新潮社であることもあって、『新潮45』がよくやるような煽情的な「殺人ポルノ」(殺人事件の詳細を、ポルノを楽しむように楽しむ目的で書かれた下世話な読み物)ではないかという危惧もあったのだが、読んでみたらすこぶる真摯な内容だった。

 殺人者たちと対話した記録としても高い価値があるし、日本の刑事訴訟のあり方についての提言としても傾聴に値する部分が多い。
 たとえば、著者は次のように言う。

 社会が抱く大きな誤解は、「刑事裁判によって事件の真相が明らかにされる」という思い込みです。事件事実だけでなく、犯人の動機、そしてどうしてこのような悲劇が起きたのかという原因の究明……。残念なことに、これらを明らかにすることを裁判は目指してはいないのです。
 量刑判断――。
 これが刑事裁判の意味だということを、鑑定に携わるようになってはじめて知った時、私はおおいに落胆したのでした。量刑を判断する上で専門家による調査(各種鑑定)がなされることがあります。しかしそれは真実の究明を目的としているのではなく、あくまでも判決を決める裁判の一プロセスに過ぎず、場合によっては判断材料とすることがあるという程度のものでした。



 たとえ真実を察していたとしても、検察官も弁護人も、それぞれの立場から不利なことには触れません。いったん主張したら、あとには引けないという勝ち負けの世界。検察官は有罪かつ重い判決を、弁護人はその逆を目指します。



 10編それぞれ読みごたえがあるのだが、圧巻は前上博(自殺サイト連続殺人事件の被告。すでに死刑執行)の章と金川真大(土浦無差別殺傷事件の被告)の章。2つの章とも、不謹慎を承知でいえば、文学的感動すら覚える。殺人者という「人間の究極」の心に分け入ることで、優れた文学がそうであるように「人間が描かれている」のである。

 著者は、よくある「人権派」のように加害者側に一方的に肩入れするわけではなく、あくまで中立的な立場を保っている。そのうえで、どれほど凶悪な殺人者の心にも人間性の輝きがあることを信じ、殺人に至った心の軌跡を丹念に読み解いていく。その読み解きのプロセスが、前上、金川の2人についてはとくに印象的なのだ。

 金川真大は、死刑になって死にたいからという理不尽な理由で無差別に殺人を犯し、裁判で「被害者の気持ちは考えないのか」と質問され、「ライオンがシマウマを襲うときに何か考えますか?」と答えたことで知られる。
 著者は、人の感情をもたないモンスターのように見える金川との面会をくり返し、その「感情の否認」が特異な生育歴から生まれた「病的な防衛機制」だと看破していく。そして、彼に宛てた手紙の中で、「ライオンの心がわかった」「金川真大こそがシマウマだった」と記すのだ。

 登場する10人のうち、宮崎勤を除く9人は明らかな崩壊家庭に育っている。親から虐待を受けつづけて育ったり、家族がバラバラで完全に絆が断ち切られていたり……。そのことに、改めて慄然とさせられる。 

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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