坂本敏夫『死刑執行命令』


死刑執行命令―死刑はいかに執行されるのか死刑執行命令―死刑はいかに執行されるのか
(2010/11)
坂本 敏夫

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 坂本敏夫著『死刑執行命令――死刑はいかに執行されるのか』(日本文芸社/1575円)読了。

 元刑務官で、死刑執行にも携わってきたノンフィクション作家が、経験をふまえて日本の死刑制度の現実をさまざまな角度から解き明かした本。
 随所で小説風の構成がとられており、わかりやすい。ただし、小説風のパートも内容はすべて「事実と関係者の証言、もしくは私の体験に基づいている」という。

 全6章のうち、第1章は永山則夫のこと、第5章は冤罪被害者・免田栄さんのことにそれぞれ一章が割かれている。2人とも、日本の死刑制度について論ずるうえで避けては通れない存在なのである。

 永山則夫の章では、死刑執行時の模様(おそらく、内部資料か関係者の証言に基づいているのだろう)についての詳細な記述がショッキングだ。永山は延々一時間にわたって徹底的に抵抗したため、「制圧」されたときには全身傷だらけの状態であったという。そのため、遺体は火葬され遺骨とされてから遠藤誠弁護士に引き渡されたのだ。

 残りの4章では、刑務官や教誨師らと死刑囚のふれあいがリアルに描かれ、死刑執行に携わる側の心理状態がつぶさにわかるように構成されている。

 たとえば、こんな一節がある。

 死刑囚は処刑の日まで、心身共に健康に生きていてもらわなければならない。具体的に言えば、自殺させない、病気にさせない、狂わせない、ということである。
 拘置所側のそうした、ある意味では『弱み』というようなものを死刑囚も十分承知している。彼らは、拘置所幹部のやり方をじっと見ている。
「どうせ俺は殺されるんだ。おとなしく殺されてやるから命ある間は大事にしろよ」
「その気になれば、むずかしいことを言って拘置所をガタガタにしてやるぞ」
 ズバリとは言わないが、言外に匂わせる。  ※太字強調は原文ママ



 この一節の巧まざるアイロニーの、なんと痛烈なこと。 
 『モリのアサガオ』という、刑務官と死刑囚を描いた素晴らしいマンガがあったが、本書にはそのリアル版という趣もある。ちなみに、著者はテレビドラマ版『モリのアサガオ』の刑務監修も手がけたそうだ。

 全編を通じて、著者はいささか死刑囚に同情的すぎる気がする。まあ、共に過ごす時間が長ければ、相手が死刑囚であろうと情がわくのは人間として当然だろうが。
 ただし、著者は死刑制度反対派ではなく、「死刑制度はあるが死刑の執行が停止されている。そんな状態が最も誇るべき姿だと私は考える」(「エピローグ」の末尾の一文)との立場だ。

 その立場の是非はさておき、死刑に関する著者の主張には首肯できるものが多い。たとえば――。

 現在の死刑執行は執行直前の言い渡しをするように統一されている。いわばだまし討ちみたいなものだ。
 絞首という方法が残虐か否かという議論があるが、死の準備をさせないことこそが残虐であると、私は思ったものだ。

 
  
 そして、執行を直前に言い渡すのは、通告後に取り乱した対象者がトラブルを起こしたら、拘置所側の責任問題になるからなのだろう。

 本書によれば、死刑執行を経験したことを機にうつ病などで心を病む刑務官が、少なからず存在するらしい。それはそうだろうな、と思う(刑務官でさえそうなのだから、裁判員制度の中で素人が死刑判決を下す羽目になった場合、トラウマになるだろうと心配になる)。
 
 ただ、本書にある、「皆、刑務官の仕事に死刑を執行することがあるとは知らずに採用試験を受けたのだろう。牧村自身もそうだった」という一節には首をかしげた。採用試験を受けるならそれくらい知っておけよ、と言いたくなる。刑務官が執行しないなら、いったい誰が執行すると思っていたのか。

 ともあれ、日本の死刑制度の現実を知るために、死刑賛成派も反対派も一読の価値はある本だ。著者も本書で言うとおり、「死刑のあり方・存廃を論じるのは死刑確定囚の処遇がどのように行なわれているか熟知した上で行なうべき」なのだから。現実を見ずに机上の空論で論じてはならない問題だと思う。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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