町田康『どつぼ超然』


どつぼ超然どつぼ超然
(2010/10/15)
町田 康

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 町田康著『どつぼ超然』(毎日新聞社/1680円)読了。

 最新長編である。
 連載時には「熱海超然」というタイトルだったそうで、町田自身とおぼしき主人公が熱海の町をさまよい歩くという内容だ。熱海の名が消えたのは、あるいは熱海市民から抗議でも寄せられたのかもしれない(熱海を馬鹿にしたと取れなくもない記述も頻出するので)。
 作中でも「熱海」の二字は一切使われず、「田宮」という架空の(田宮と名がついたほかの市町村はあるが)地名に置き換えられている。

 ストーリーはあってなきがごとし。すべてに「超然」として生きようと決めた主人公が、熱海のさまざまな場所を訪ね歩いては、そこで出会う人々、出合う物事についてとりとめない妄想をくり広げるというエッセイ風小説である。

 『告白』のような物語性豊かな作品を期待すると、肩透かしを食う。これは、かつてのデビュー作『くっすん大黒』の世界をさらにパワーアップ、スケールアップしたような、壮絶なる“無意味の哄笑”の文学である。

 随所に仕掛けられたナンセンスな笑いと、町田ならではの「はじけつつうねる」ような文体の魅力はかなりのもので、「くだらないなあ」と思いつつもページを繰る手が止まらない。

 私が思わず吹き出してしまった一節を引用する。

 そういえばむかし、『二十四の瞳』、とかいう映画か小説があったが、あれは確か離れ小島の分教場の話ではなかったか。瞳が二十四ある女教師が、分教場に赴任、オルガン弾いて歌うなどし子供たちに大人気であったが、父兄の、「瞳が二十四もあるのはおかしい。敵国のスパイではないか」「みていて気持ちが悪い」といった苦情により辞職せざるを得なくなった。女教師はそのことを悲観して自殺を図り、失明してしまったが、幸いにして瞳はまだたくさんあったので、日常生活に支障はなく、そのことを聞いた父兄も反省し、女教師は復職、みんなで楽しく野球をやりながら民主主義を学んでいく、といった話ではなかったかと記憶しているが、


 
 このように、穂村弘か岸本佐知子のコラムに出てきそうな妄想が随所にあふれ、それがグルーヴ感あふれる文体とあいまって笑いを誘うのである。

 町田康は、作家デビューから13年を経たいまなお、作家然とした作家にはならず、「心はパンク・ロッカー」でありつづけている。文章でパンク・ロックを演りつづけている――改めてそんな気がする痛快作。


↑なにしろ、「町田町蔵」時代にはこんなことやってた人だから。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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