ブルボン小林『マンガホニャララ』


マンガホニャララマンガホニャララ
(2010/05/27)
ブルボン小林

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 ブルボン小林著『マンガホニャララ』(文藝春秋/1200円)読了。

 ブルボン小林とは、芥川賞作家・長嶋有の別ペンネームである。もちろん長嶋のファンなら知っていることだが、本書には長嶋有の名はどこにも使われていない。長嶋もいまでは映画化作品も複数ある人気作家なのだから、長嶋名義で出したほうが少しは本の売れ行きも上がると思うのだが……。

 ブルボン小林名義の著書には、『ゲームホニャララ』というゲームネタのコラム集もある(私はゲームをやらない人間なので、未読)。本書はそのマンガ版。『週刊文春』にいまも隔週連載中の同名コラムを中心に、さまざまなメディアに寄せたマンガネタのコラムを集めたものなのだ。

 マンガ評論と言わずに「マンガネタのコラム」と呼ぶ理由は、読んでみればわかるはず。古いものから新しいものまで、メジャーからマイナーまで、さまざまなマンガを取り上げた文章が並んでいるのだが、その大部分は作家論とも作品論とも言いにくい、ユニークな角度からマンガを語った内容なのである。

 たとえばあるコラムでは、「刊行に時間がかかることでも有名」な『ヒストリエ』のコミックスに、なぜか「これまでのあらすじ」がないことに着目。誰も思いつかない角度から、『ヒストリエ』の魅力に迫っている。

 別のあるコラムでは、人気マンガのタイトルロゴについて語るという、これまたほかの誰も思いつかないようなテーマを選んでいる。しかも、そんなトリヴィアルなネタで十分面白いコラムになっているのだから、スゴイ。

 また、別のコラムでは、マンガの中に顔が描かれないキャラクター(『めぞん一刻』の響子さんの前夫とか、『美味しんぼ』の山岡士郎の母親など)を比較して、顔が描かれないことの意味を考察している。

 些末なテーマばかり選んでいるようでいて、その内容は意外にも、取り上げた作家・作品の本質を射抜いている。
 たとえば、1990年代とゼロ年代の人気女性マンガ家の質の違いを、著者はなんと「床」の描き方の違いから論じてみせる(!)。

 九○年代、女性作家の漫画には、やたらと「床」が描かれていた。比喩ではない。(憧れも含め)若者がフローリングとベッドで暮らすようになった時代の反映だろうか。(中略)岡崎京子の漫画が特にそうで、人物はしばしば床にいたし、読者の視野にも板の線がやたら目に入る。
 ゼロ年代にデビューした渡辺ペコの『にこたま』にはほとんど「床」が出てこない(強調がない)。



 そうした違いが何を意味するのかを、著者は謎解きしていく。訳知り顔の評論調ではなく、軽快なコラム芸の中で……。

 前半を占める『週刊文春』連載分が、総じてコラムとしての質が高い。それ以外のメディアに寄せた原稿を集めた後半は、玉石混淆。
 ただ、全編をつらぬく飄々とした味わいは、長嶋有の小説世界そのものだ。長嶋ファンで、しかもマンガ好きなら十分楽しめる内容である。

 何より好ましいのは、マンガを読むこと、マンガについて語ることの楽しさが、全編から熱く伝わってくる点。

 長嶋有名義のエッセイ集『いろんな気持ちが本当の気持ち』の一編に、CDを買って電車で帰るとき、電車の中でCDの包装を開けてライナーを読み、音を想像するのが楽しい、という一節があった(本が手元にないのでうろ覚えだが)。
 私はその一節を読んだとき、音楽好きの「気持ち」をじつにうまくすくい上げるものだ、と感心した。

 同様に本書も、トリヴィアルなネタのコラムを通じて、マンガ好きの「気持ち」が巧みに表現されている。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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