チック・コリア・エレクトリック・バンド『トゥ・ザ・スターズ』


To the Stars (Dig)To the Stars (Dig)
(2004/08/24)
Chick Corea

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 チック・コリア・エレクトリック・バンドの『トゥ・ザ・スターズ』を聴いた。2004年に出たものだが、聴いたのは初めて。

 1970年代、第2期リターン・トゥ・フォーエヴァーで、マハヴィシュヌ・オーケストラと並んでジャズ・ロックの頂点を極めた、ジャズ・ピアノの巨匠チック・コリア。彼が再びロック色の強いバンド・スタイルを取ったのが、1985年結成の「チック・コリア・エレクトリック・バンド」であった。

 80年代半ばから90年代半ばにかけ、(途中にメンバー交代をはさみつつ)6枚のアルバムを発表したチック・コリア・エレクトリック・バンド。それが、約10年を経て復活を果たしたのが本作だ。
 ジョン・パティトゥッチ(b)、デイヴ・ウェックル(ds)、フランク・ギャンバレ(g)、エリック・マリエンサル(sax)というおなじみの「テクニックがありすぎる人たち」が顔を揃え、華麗なハイパー・テクニカル・フュージョンが展開されている。

 チック・コリアがかねてより心酔しているSF作家、L・ロン・ハバードの同名小説をモチーフにしたコンセプト・アルバムである。
 ハバードは新宗教「サイエントロジー」の創始者でもあるが、本作にはとくに宗教色はなく、ドラマティックな構成をもつジャズ・ロック・アルバムとして普通に楽しめる。

 私のチック・コリア・エレクトリック・バンドに対する印象は、一言で言えば「RTFの軽装版」というもの。「RTFから重厚さや深い精神性を削ぎ落とし、ポップでカラフルなハイパー・テクニカル・フュージョンを聴かせるエンタメ系バンド」というイメージであったのだ。
 華麗なテクニックの応酬は耳に心地よいが、深みに欠けるうらみがあり、あまりのめりこんで聴いた記憶がない。要するに、私はRTFのほうが好きだったのだ。

 しかし、本作はSF小説をモチーフにしているだけあって、従来のエレクトリック・バンドのもつ軽さがうまく払拭されていて、好印象。過去のエレクトリック・バンドのアルバムより、むしろRTFの『銀河の輝映』や『第七銀河の讃歌』を彷彿とさせる作品に仕上がっているのだ。

 とくに、10分を超える2つの大曲――「ジョニーズ・ランディング」と「ザ・ロング・パッセージ」は、RTFの最高傑作『浪漫の騎士』に入っていても違和感がないであろう壮大な傑作で、素晴らしい。第2期RTFが好きな人なら、この2曲のためだけにでも買って損はない。


↑「ジョニーズ・ランディング」のライヴ映像(フランク・ギャンバレがソロをかます部分)

 ただし、本作には一つ難がある。
 全17曲のうち7曲が「ポート・ヴュー」1~7と銘打たれた短いインタールードになっているのだが、この部分がまったくつまらないのである。計7曲の「ポート・ヴュー」はそれぞれ、チックのシンセが奏でる「フニュ~ン」とか「ヒュイ~ン」とかいう感じの音で構成されているのだが、音楽的価値は皆無としか言いようがない。

 チック・コリアは、このようにインタールードを挟む構成が好きらしい。RTFの『銀河の輝映』でも、骨太なジャズ・ロック・チューンの合間にピアノ・ソロのインタールードを挟んでいた。
 ただし、『銀河の輝映』の場合、インタールードにも澄明な美しさがあり、聴く価値があった。それに対し、本作の「ポート・ヴュー」はSF映画のサウンド・エフェクトみたいなものでしかなく、ないほうがよかった。
 ためしに、CDプレイヤーのプログラム機能を使って「ポート・ヴュー」部分を抜かして聴いてみたところ、そのほうがはるかに引き締まってよい印象になった。

 でもまあ、インタールードがしょぼい点を除けば、たいへんよいアルバムだと思う。

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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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