『サラバンド』

 京橋の映画美学校第二試写室で、『サラバンド』の試写を観た。
 巨匠イングマール・ベルイマンの、じつに20年ぶりの新作である。ベルイマンは今年88歳。自らも「遺作」と公言しているとおり、この『サラバンド』が最後の作品となるだろう。公開は10月21日。

 公式サイト→ http://www.saraband-movie.com/

 一組の夫婦の離婚に至る道程を描いた、『ある結婚の風景』(1974年)の続編だ。あの映画で夫婦であった2人――大学教授のヨハン(エルランド・ヨセフソン)と、弁護士のマリアン(リヴ・ウルマン)――が、離婚後30年を経て再び物語の主人公となる。

 ヨハンはもう80代、マリアンも60代前半。人生の終着点がくっきりと見える年代になって、マリアンは突然、ヨハンが余生を暮らす湖畔の別荘を訪ねる。何かの啓示を受けたかのように……。

 かつて愛し合った者同士の、30年ぶりの再会――。おりしも、ヨハンの家庭は波乱のただなかにあった。別荘のそばで暮らすヨハンの息子ヘンリックとその娘カーリンの間に、深刻な確執が生じていたのだ。また、ヨハンとヘンリックの父子も、長年互いを憎しみ合って生きてきた。

 ヘンリックの妻でありカーリンの母であるアンナは、そうした確執を消し去り「世を明るくする」存在だった。だが、アンナは2年前に病死。そのことが、父子の確執が再び表面化し、父と娘の間に初めて深い亀裂が生ずる引き金となったのだ。

 マリアンは、亡きアンナのかわりに2組の親子の確執を消し去るという使命を帯びて、神から遣わされた老いた天使のようだ。

 2組の親子の憎しみが荒れ狂う暴風と化し、やがてその暗雲の切れ間に愛の光がかいま見える……そんな趣の一幕の愛憎劇を、「狂言回し」のヒロインの目を通して描いている。

 役者は、ワンシーンだけ登場するマリアンの娘を含めてもたったの5人。ストーリーの大半はヨハンの別荘で展開する。まるで舞台劇のようなシンプルな映画である。
 しかも、登場人物たちの会話をクローズアップでとらえるシーンが、かなり多い(スクリーンいっぱいに映し出される顔のシワ!)。

 そうした要素だけを取り出してみると、ものすごく地味で暗くて退屈な映画に思えるだろう。じっさい、地味で暗い映画なのはたしかだが、しかし少しも退屈ではないのだ。深みのあるセリフの積み重ねと、出演者の繊細で見事な演技、そして演出の妙で、最後まで飽きさせない。まるで「能」のような静かで心地よい緊迫感が持続する。

 「愛と背中合わせの憎しみ」を克明に描き出す、いぶし銀の傑作。ベルイマンの最後の作品にふさわしい。

 老いの哀しみを体現する登場人物たちの中にあって、孫娘カーリン役のユーリア・ダフヴェニウスの健康的な若い肢体が、まばゆい「生の輝き」を放って印象的だ。
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。54歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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