森博嗣『小説家という職業』


小説家という職業 (集英社新書)小説家という職業 (集英社新書)
(2010/06/17)
森 博嗣

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 森博嗣著『小説家という職業』(集英社新書/735円)読了。

 人気作家が、小説家になるまでの経緯と、作家稼業の舞台裏を明かしたエッセイ集。
 よくある「小説の書き方」入門のつもりで読むと、思いっきり肩透かしを食う。具体的な創作作法に類することは皆無に等しいからである。
 私はこの人の小説を一つも読んだことがない。ファンなら受け止め方が違うのだろうが、私には何も得るところのない本だった。

 工学博士で、大学教員をしていた著者は、「40歳になる少しまえに突然、小説を書いた。練習したこともないし、趣味で書いたこともなかったけれど、執筆してみた」。しかもそれは、「最初から、金になることをしようと考えて」ビジネスとして書いたのだという。

 その小説がいきなり高評価を受け、半年後には小説家デビュー。しかも、「最初の1年で3冊の本が出版され、その年の印税は、当時の本業(国立大学勤務)の給料の倍にもなった。それで驚いていたら、翌年には4倍になり、3年後には8倍、4年後には16倍と、まさに倍々で増えた」というトントン拍子ぶり。

 生まれて初めて書いた小説で売れっ子になった――というのが事実なら、著者はまぎれもない天才で、凡人の真似できることではない。にもかかわらず、著者は自分と同じことは誰でもできるかのように言う。また、“作家として芽が出ない人たちは、ビジネスとしてクールに取り組まないからダメなのだ”みたいなことも言う。

 大事なことは、「こうすれば」という具体的なノウハウの数々ではなく、ただ「自分はこれを仕事にする」という「姿勢」である。その一点さえ揺るがなければなんとかなる、と僕は思っている。ようするに、「小説を書いて、それを職業にする」という決意があれば、ノウハウなどほとんど無用なのだ。
 こんな単純なことなのに、何故か多くの小説家志望の人たちが、自分の創作に疑問を持ち、夢を実現できないでいる。



 「姿勢」の問題ではなく、著者は天才で、「多くの小説家志望の人たち」には才能がないというだけのことだろう。
 天才には凡人の気持ちがわからないのだなあ、としみじみ思う。イチローや現役時代の長嶋茂雄から見たら、「ヒットを打つコツなんて単純なことなのに、なぜみんな打てないのかなあ?」と、ほかの選手のダメっぷりが歯がゆく思えることだろう。著者の言っていることはそれと同じだ。

 著者に悪意はないのだろうが、本書の大半は「天才による、凡人に対するイヤミ」としか思えない。小説家志望の人は、読むと腹が立つから読まないほうがいい(笑)。

 僕は特に必死で努力をしたわけではない。1日3時間以上小説の仕事をしたことはなかったし、最近では1日1時間に制限しているくらいだ。それでも、この10年間に毎年100万部以上コンスタントに出版され、使い切れないほどの印税が銀行に振り込まれた。
(中略)
 おそらく僕は非常に稀な例だろう。幸運だったことはまちがいない。ただ、もしなにか僕に運以外の勝因があったとしたら、それは「ビジネスとして創作をした」という点ではないか、と自分なりに分析している。冷静に考え、売れるものを作った、ということだ。



 ね、イヤミにしか聞こえないでしょ? 
 どんなに冷静に「ビジネスとして創作をした」ところで(たとえば、有能な経営コンサルタントが「ビジネスとして」売れっ子作家を作り出そうとしたところで)、才能のない作家が成功するはずもない。死ぬほどあたりまえのことだ。

 言いかえれば、本書は「天才にとってのみ有用な実用書」である。本書に書かれたアドバイスにしたがってプロの小説家になれるのは、著者同様の天才だけだろう。

 たとえば、本書の冒頭近くには「もしあなたが小説家になりたかったら、小説など読むな」というアドバイスがあるのだが、凡人(もちろん私も含む)はけっして真に受けてはならない。他の作家からの影響をまったく受けずに独自の小説世界を構築できるのは、著者のような天才だけなのだから。

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死ぬほど当たり前ってどういう意味ですか?
  • 2013-07-07│03:46 |
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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