『電子書籍と出版』


電子書籍と出版─デジタル/ネットワーク化するメディア電子書籍と出版─デジタル/ネットワーク化するメディア
(2010/07/10)
高島 利行仲俣 暁生

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 沢辺均ほか著『電子書籍と出版――デジタル/ネットワーク化するメディア』(ポット出版/1680円)読了。

 タイトルどおり、電子書籍をめぐる出版界の状況を、さまざまな角度から考察したもの。
 収録原稿はいずれも、パネルディスカッションやインタビュー、講演などをテキスト化したもの。ゆえに読みやすいが、話されたものそのまんままゆえの粗さもある。

 内容は、以下のとおり。

I─「2010年代の『出版』を考える」
IT企業の経営者であり、アルファブロガーとしても知られる橋本大也、文芸評論家、フリー編集者として電子書籍を追い続けてきた仲俣暁生と、早くから出版活動のネット展開を手がけてきた版元ドットコム組合員である高島利行、沢辺均の4人が語る、「電子書籍の可能性」「書き手、出版社はどう変わるか?」。

II─「電子出版時代の編集者」
2009年10月に、アルファブロガー・小飼弾氏との著書『弾言』と『決弾』のiPhoneアプリ版を製作し、自らの会社から発売したフリーライター/編集者の山路達也に訊く、書籍の執筆・編集から電子書籍の製作、そして発売後のフォローアップまで、多様化する編集者/コンテンツ製作者の「仕事」。

III─「20年後の出版をどう定義するか」
電子書籍の権利やフォーマット、教育現場での使用に詳しい東京電機大学出版局の植村八潮に訊く、「書籍が電子化される」ということの根源的な意味、「本であること」と「紙であること」はどう違い、どう結びついているのか?

IV─「出版業界の現状をどう見るか」
出版、そしてメディア産業全体の動向を20年間追い続けている「文化通信」編集長・星野渉が解説する、出版業界の現状と、急激な変化の要因。

V─「編集者とデザイナーのためのXML勉強会」
元「ワイアード日本版」のテクニカルディレクター兼副編集長を務めた深沢英次による、タグつきテキスト、XMLの「基本構造」を理解するための解説。



 「目玉」的な扱いのパネルディスカッション「2010年代の『出版』を考える」は、内容がとっちらかっていてまとまりに欠ける。「酔っぱらった勢いで言っちゃうと」なんて発言もあって、飲みながら話したらしいし(笑)。

 また、「編集者とデザイナーのためのXML勉強会」は、いちおう目は通したものの、私には内容がさっぱり理解できなかった。

 「電子出版時代の編集者」のインタビューイ・山路達也は、少し前に読んだ『マグネシウム文明論』の共著者で、「只者じゃないなあ」と思っていた人。これからの時代に生き残っていくライター/編集者はこういう人材なのだろうな、と感服。

■関連エントリ→ 『マグネシウム文明論』レビュー

 いちばん面白く読んだのは、「出版業界の現状をどう見るか」。これは、じつに示唆に富む内容だった。
 付箋をつけた箇所をいくつか引用する。

 よく「日本は新刊点数が多いから返品率が高い」と言われますが、ドイツでは日本と同じくらいの点数で7%前後の返品率を保っています。ドイツは時限再版ですが再販制度があるなかで、返品率は10%以下。日本との違いは、買切りか委託か、という点だけです。ですから、返品が多い理由は新刊が多いからでも、再販制度があるからでもなく、単に委託販売で返品が可能だからです。



 取次システムが行き詰まって、もう委託は取れません、となったときに初めて、日本の出版社の淘汰が始まる。それこそが本当の「出版不況」であり、日販の総量規制はその狼煙だと思います。



 新潮社の一番の食い扶持は、村上春樹の『1Q84』ではなく、ドストエフスキーやトルストイ、夏目漱石の文庫本なのです。(中略)そのバックリストを大量に持っているため、ひとつひとつの回転率はそれほどでなくても、大きな収益が上がる、というのが日本の出版社のビジネスモデルなのです。
 ところが、電子書籍が普及して、パブリックドメインの作品を簡単に出版することができたら、これまでのビジネスモデルは成り立ちません。出版社が一番恐れているのは、おそらくこの点です。



 (欧米、韓国の新聞部数の激減に比べ)日本の新聞はほとんど部数を減らしていません。最近、「産経新聞」が大きく減ったのは残余の部数を減らしただけで、購読部数が極端に落ちているわけではありません。これは他の新聞も同じです。
 新聞の部数がそれほど減っていないのは、宅配制度という、放っておけば毎日家に届く、断るために努力をしなければならない制度があるからです。もし宅配制度を止めれば、どの程度かはわかりませんが、新聞の部数は大きく減るでしょう。
 宅配制度がなくどんどん部数を減らしているアメリカと違い、日本では、ある程度まで漸減していき、あるところで一気に落ちる可能性があると考えています。

 

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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