「ひどい取材」の話


ファイアーキング・カフェファイアーキング・カフェ
(2010/05/20)
いしかわ じゅん

商品詳細を見る


 いしかわじゅんが、「日経BPオンライン」の連載エッセイ「ワンマン珈琲(カフェ)」で、沖縄の二大紙から受けたひどい取材について書いている(→こちら)。

 読んでみると、たしかにひどい。
 小説の新刊(※)『ファイアーキング・カフェ』の著者インタビューを受けたところ、二大紙の記者ともその本を読まずに取材にきたばかりか、いしかわが何者なのかまったく知らなかったという。

※いしかわはマンガ家だが、小説を書かせてもうまい。北方謙三をおちょくったハードボイルド・パロディ『東京で会おう』など、なかなか面白かった。

 A紙の場合――。

 私の新刊をテーブルの上に置き、取材が始まった。本はジュンク堂から借りたらしい。
 しかし、どうもなんだか変なのだ。質問が的を射ていないというか、二階からシャンプーされているような妙な感触なのだ。
 私は単刀直入に聞いてみた。
「ちょっと聞きたいんだけど、きみは俺がなにをやってるどういう人間なのか、知ってる?」
 答は、もっと単刀直入であった。
「えへへへ、さっきウィキペディアで調べました」
 実に率直である。知らない人にインタビューするのは、そりゃむつかしいだろうな。



 B紙の場合――。

 名刺交換をし、それから記者が質問をした。
「ええと、本をお出しになったそうですが、どういう本ですか?」
 えええーっ、下調べゼロかー!
(中略)
 彼は義務でインタビューにきただけで、私になんの興味もないし、本についても知りたいことなんてないのだ。これではインタビューにならない。
「もうやめよう。時間の無駄だし」
 私は立ち上がった。
「俺の名刺を返して」
 名刺を渡すと、記者は何事もなかったかのように普通に席を立ち、そのままカメラを肩にかけて、すたすたとエレベーターに向かって歩いていった。

 

 いしかわはこれを沖縄の新聞の質の低さを示す例として書いているが、東京の大新聞にだってひどい取材をする記者はいる。

 たとえば、評論家の呉智英はエッセイ集『犬儒派だもの』で、朝日の記者(文中に朝日の名は出てこないが、前後の文脈でわかる)から受けたひどい取材について書いている。
 その記者は開口一番、こう言ったという。

「で、呉さんは、小説家ですか、エッセイを書いているんですか。それとも脚本家か何か」



 また、小説家のエッセイ集を読んでいると、この手の「ひどい取材」ネタにときどき出くわす。「最初から最後まで、私の名前を間違えたままの記者がいた」とか、「オレの本を一冊も読まずに取材にきやがった」とか……。

 ま、わりとよくある話なわけですね。

 下調べ抜きでインタビューに臨むなんて、私にはとてもできない。相手に失礼であるという以前に、コワくてできないのである。丸腰で戦場に立つようなものだから。
 それに、私には自分が口下手だという自覚があるから、「下調べくらいきちんとやらないと、インタビューにならない」と考えているのである。
 だから、自慢ではないが、取材のときに「私のこと、よく調べてありますね」と言われることが多い。
(私とは逆に弁の立つ記者やライターの場合、話のうまさに対する過信から「ぶっつけでなんとかなる」と思ってしまうのかもしれない)

 いしかわじゅんに「名刺返して」と言われた記者の、“逆ヴァージョン”の経験もある。
 それは、某売れっ子評論家を取材したときのこと。取材を始めたとき、私が名刺を出しても相手は名刺をくれなかった(これはままあること。とくに芸能人の場合、名刺はくれないのが普通)。
 が、取材を進めるうち、私が相手の著書をたくさん読んでいることがわかると、彼は突然ポケットから名刺入れを取り出し、名刺をくれたのである。「コイツになら名刺やってもいいか」みたいな感じで(笑)。

関連記事

トラックバック

コメント

コメントを残す

Secret


Guide 

   →全記事インデックス

Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

Counter 

メールフォーム

★私にご用の方はここからメールを下さい。

お名前
メールアドレス
件名
本文

最近の記事

マイ「神曲」ベスト100

カテゴリー

ブクログ・MY本棚

タイトルの由来

●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

Archives

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
34位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
23位
アクセスランキングを見る>>