シャーデー『ソルジャー・オブ・ラヴ』


ソルジャー・オブ・ラヴソルジャー・オブ・ラヴ
(2010/03/03)
シャーデー

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 シャーデーの最新作『ソルジャー・オブ・ラヴ』を、遅ればせながら(発売は今年3月)聴いた。

 前作『ラヴァーズ・ロック』以来、じつに10年ぶりとなるアルバム。
 新作を出すたびに数百万枚単位で売れるから、こんなペースでも十分やっていけるわけだ。優雅な仕事ぶりはうらやましいかぎり。

 しかしこのアルバム、10年ぶりにしてはあまりにも地味すぎやしないか。これまでの全アルバムでダントツの地味さかげんなのである(『ラヴァーズ・ロック』もアコースティック寄りの地味なアルバムだったが、あちらは暖色系・癒し系の曲が多かったぶん、本作ほど地味ではない)。
 先行シングルとなったタイトル・ナンバーを聴いたときに「地味な曲だなあ」と思ったものだが、アルバム全体からみればあれでもまだポップなほうなのだ。



 初期の「スムース・オペレーター」のような“ジャジーなオシャレ系ポップ”の色合いはもはやどこにもなく、「キッス・オブ・ライフ」のようなキャッチーな曲もなく、全編どこをとっても地味でダークトーンなサウンド。

 いや、本作も十分オシャレではあるのだ。が、そのオシャレさかげんがものすごく渋くて、若い人には到底よさがわからない感じ。
 生ギターやピアノ、ストリングスが高い比重で用いられた、すき間の多いオーガニックなサウンド。それに乗って歌われるのは、アルバム・タイトルが示すとおり、愛という名の闘いの物語だ。

 すべての曲がシンプルなラブソングだが、一つとして甘い愛や楽しい愛ではない。苦い愛、つらい愛、身も心も引き裂きボロボロにする愛ばかりが歌われる。たとえば――。

わたしは愛の戦士
生きているかぎりずっと
心をずたずたに引き裂かれ
置き去りにもされたけど
自信に満ちて前に向かっていく(「ソルジャー・オブ・ラヴ」)

この愛はもうおしまいだと気づいた時
わたしは銃のようになってしまった
(中略)
まずはわたしの肌からあなたを洗い流して
あなたをこそげ落としてしまおう
あなたはわたしの中にいるべき存在じゃないの(「スキン」)
(以上、ライナーノーツに載った中川五郎の対訳より引用)



 だからこそ、曲調は総じて陰鬱で哀しい。失恋や別れの直後に聴いてはいけないアルバムだ。

 最後の曲「ザ・セーフエスト・プレイス」でのみ愛の安らぎが歌われてはいるが、それは「わたしの心はこれまでずっと/戦地に赴いていたひとりぼっちの戦士のようだった」という前提での安らぎなのである。

 お手軽な愛ばかりが歌われるポップ・ミュージックの世界にあって、シャーデーが作り上げたストイックでビターな“孤高のラブソング集”は、いぶし銀の輝きを放っている。
 ただ、くどいようだが地味で渋いアルバムなので、「オシャレなBGM」を求める向きは手を出さないほうが無難。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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