川本三郎『いまも、君を想う』


いまも、君を想ういまも、君を想う
(2010/05)
川本 三郎

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 川本三郎著『いまも、君を想う』(新潮社/1260円)読了。
 2008年に食道ガンで世を去った著者の夫人、川本恵子さん(ファッション評論家)の思い出を綴ったエッセイ集。

 私はファッションにはまるで興味がないのだが、川本三郎さんのファンなので「奥さんの著書も読んでみよう」と思い、『ファッション主義』(ちくまブックス)を読んだことがある。もう四半世紀ほど前のことだ。その本のカバーそでに載った、女優のように美しい著者近影が印象に残った。
 本書のカヴァーにも、若き日の美しい川本恵子さんのポートレイトが用いられている。

 アマゾンの内容紹介には、次のようにある。

 三十余年の結婚生活、そして、足掛け三年となる闘病…。家内あっての自分だった。七歳も下の君が癌でこんなにも早く逝ってしまうとは。文芸・映画評論の第一人者が愛惜を綴る、感泣落涙の追想記。



 「感泣落涙」という大仰な言葉に、違和感を覚える。本書はそのような大仰さから遠い、静謐な印象のエッセイ集であるからだ。
 涙を誘う一節もなくはないが、著者はむしろ、ありきたりの「泣ける本」にすることを注意深く避けている印象を受ける。

 家内が逝ったあと、画家の西田陽子さんから手紙をいただいた。
「幸せだった思い出を語るのが、亡くなられた方にとっていちばんうれしいことではないかと想っています」とあった。
 いま、なるべく「幸せだった」頃のことを思い出すように努めている。



 そんな一節があるとおり、大半を占めるのは、結婚生活の中から拾い出された幸せな思い出の数々である。闘病などの悲しい思い出の記述は、必要最低限にとどめられている。

 そして、幸せな思い出を語ることを通じて、その行間にはおのずと亡き妻への哀惜と深い悲しみが流れ通う。悲しみをことさら強調するのではなく、言外に漂わせる形で、抑制の効いた表現がなされているのだ。

 私は、川本さんの著書の中では、『朝日ジャーナル』記者時代の青春記『マイ・バック・ページ』がいちばん好きだ。
 本書の一部には、“もう一つの『マイ・バック・ページ』”という趣もある。『朝日ジャーナル』記者時代、武蔵野美術大学の学生だった恵子さんと出会い、つきあい始めたころの思い出を綴った文章も収められているからだ。

 印象に残った一節をメモ。

 フリーの物書きになった三十代のはじめの頃、ある雑誌に匿名の映画コラムを連載で書いていた。匿名をいいことに、よく映画の批判を書いた。エラソーでいま思うと恥ずかしくなる。
 ある時、家内が言った。
「匿名で人の悪口を書くなんてよくないわよ。あなたいつも言っているじゃない。西部劇の悪人は、丸腰の相手を撃つって。それと同じじゃない」
 これは西部劇の好きな私にとって痛烈な批判だった。その通りだと思った。それから、気に入った映画、好きな映画のことだけを書くようになった。



 最近、甲州には、こんな言い伝えがあることを知った。「死んでから七日以内に雨が降ると、その人は天国に行ける」。家内が逝ったのは六月十七日。日記を見ると五日後の六月二十二日に雨が降った。



 
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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