木村多江『かかと』


かかとかかと
(2010/04/02)
木村 多江

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 木村多江著『かかと』(講談社/1365円)読了。

 日本一の薄幸顔美女・木村多江の初エッセイ集。先日読んだ南果歩の『瞬間幸福』につづいて、ひいきの女優のエッセイ集に手を伸ばしたしだい。

 表紙も含め、本の中にただの一枚も木村多江の写真が載っていない。当然、制作サイドの明確な意図をもってそうしたのだろうけど、ファンとしては残念。少しは写真を載せてくれたっていいじゃないか、と思う。

 エッセイ集としては、なかなかよくできている。ファン以外の人にとって面白いかどうかは微妙なところだが、男女を問わず、ファンなら愉しめる一冊。

 南果歩の『瞬間幸福』もそうだったが、本書も女優らしい華やかさがあまりなくて、私にはむしろそこが好ましい。

 本書の中の木村多江は、顔やスタイルやその他もろもろに強いコンプレックスを抱き、ドジでマヌケで鈍臭く、およそ女優らしくない。
 自分の何もかもに自信がなく、それでも演じることは何よりも好きで、よい女優になろうと悪戦苦闘を重ねる。その様子が何ともいじらしく可愛らしく、微笑ましいのだ。たとえば――。

 コンプレックスなんて、数え上げればきりがない。そことはうまく付き合っていくしかない。
(中略)
 しかし、トレーニングで身体を鍛えたり、ダイエットをしたりといった努力にも限界がある。そこで辿り着いたのが、目の錯覚を起こさせるということだった(こんなのばっかりです、わたし)。
 良さそうなスタイルに見えるように、いい顔に見えるように、努力した。実際にわたしを助けてくれたのは、ちょっとした身のこなしや、仕草、表情だ。
 万が一、わたしが演じる役を観て、“きれいだ”と一瞬でも思っていただけるようなことがあれば、それは、仕草、表情の残像がつくりだす錯覚です。



 「ああ、やっぱり。そういう人だからこそ、私はファンになったのだ」と、何か得心のいく気分になる。
 自分に自信満々な、いかにも女優然とした女優なら、私は最初から興味ないし。

 まあ、引用した一節を読んで、「美人のクセに、イヤミな女ね」と思う人もあるだろうけど。

 140ページほどの薄い本だから、あっという間に読める。33編の収録エッセイは玉石混淆ではあるが、知性とユーモアのセンスを感じさせる愉しい文章が多い。

 みなが期待するであろう、「不幸な役が似合う女」と題された一編もある。これがなかなかいい。「“薄幸”といえば、涙がつきもの」というわけで、泣きのシーンの苦労がユーモアにくるんで綴られている。その一節を引こう。

 すぐに泣けないときもある。スタッフ全員が、わたしの“涙待ち”。
 涙待ちのときは、現場が静まりかえり、わたしの緊張はピークに達する。もう、生きた心地がしない。
 結局、最後に出た涙の半分は情けない自分に対しての涙なのである。はぁ~あ。
(中略)
 最近では、開き直っている。泣きたいときもあれば、泣けないときもあるさ、そのかわり、泣く時は、本気だぞ、と。
 顔の原型をとどめないくらい泣いちゃうぞ!



 「日本一不幸が似合う女優」の素顔は、意外にお茶目でサバサバしているのである。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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