『バンド臨終図巻』


バンド臨終図巻バンド臨終図巻
(2010/04/22)
速水健朗円堂都司昭

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 速水健朗・円堂都司昭・栗原裕一郎・大山くまお・成松哲著『バンド臨終図巻』(河出書房新社/2520円)読了。

 山田風太郎の名著『人間臨終図巻』を模したスタイルで、「古今東西洋邦200バンドの解散の真相に迫」った一冊。
 企画としてはよいし、各著者が膨大な資料にあたった労作ではあるが、それほど面白いものではなかった。『人間臨終図巻』は何度も読み返す価値のある味わい深い本だったが、本書は読み返したいとはとても思えない。

 つまらなさの要因の一つは、事典スタイルに徹するあまり、あまりに幅広いジャンルのグループを取り上げすぎていること。

 いちばん最初に登場するのがハナ肇とクレイジー・キャッツで、最後に登場するのが(上地雄輔らの)羞恥心。
 で、その間に登場する約200のグループの中には、ビートルズやツェッペリンのような大物もいれば、通好みのロック・バンドもいる。フォークもいれば歌謡アイドル・グループもいる。ピンク・レディーの次に登場するのがセックス・ピストルズ。シブがき隊の次がエヴリシング・バット・ザ・ガール。横浜銀蠅もいれば頭脳警察もおり、光GENJIもいればナンバーガールもいる。果ては殿さまキングスやおニャン子クラブまで登場する。バンドじゃないだろ(笑)。

 なるほどたしかに、『人間臨終図巻』には分野を問わない多様な著名人が脈絡なく集められ、享年という境界線によって無機質に並べられていた。本書はそれに倣って、ジャンルを問わない多様な「バンド」を、解散年という境界のみで区切る構成にしたのだろう。

 だが、そうした構成は失敗だったと思う。
 『人間臨終図巻』の場合、人の死にざまがテーマだからゴチャゴチャの寄せ集めでもよかった。「私は科学が苦手だから科学者の死にざまには興味ない」などということはあり得ず、どんな分野の人の死も等しく興味深いものだから。
 
 しかし、バンドの解散はそうではない。興味のないバンドがどんなふうに解散しようと、どうでもいいことだから(私はいちおう最初から最後まで読んだが、興味のないバンドについてはナナメ読みしただけ)。
 殿さまキングスのファンが本書を読むとは考えにくいし、本書を読む人の大部分にとって、殿さまキングスがどう解散したかなんてどうでもいいことである。

 本書はロック・バンドに絞り、ほかのジャンルは削って、その分一つのバンドについての記述を増やすべきだった。『ロック・バンド臨終図巻』であったらもっと面白かっただろうし、資料的価値も高まっただろう。
 
 とはいえ、文章に皮肉が効いていて笑えた箇所も少なくない。とくに、栗原裕一郎が担当した項目は総じて面白かった。例として、さだまさしがいた「グレープ」の項の一節を引く。

 2ndシングル「精霊流し」(74年2月)の大ヒットで一躍、売れっ子フォークデュオとなったグレープは、同時に、つきまとう「暗い」というイメージに悩まされ始めた。
 コミカルな新曲を投入するなど軌道修正をはかろうとしたが不発。追い打ちをかけるように「精霊流し」と同傾向のマイナーな6thシングル「無縁坂」(79年11月)が大ヒットしてしまい、「グレープは暗い」というイメージは動かしがたいものとなった。
(中略)
 ソロになったさだはしかし、今度は、当時『オールナイト・ニッポン』のパーソナリティだったタモリによる「暗い、女々しい」といった執拗な批判に悩まされることになるのであった。



 それと、5人の著者がそれぞれ一つずつ寄せた章間コラムはどれも面白かった。ジャンルを絞ったうえで、このコラム部分をもっと広げればよかったのに……。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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