鹿野司『サはサイエンスのサ』


サはサイエンスのササはサイエンスのサ
(2010/01/22)
鹿野 司

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 鹿野司(しかの・つかさ)著『サはサイエンスのサ』(早川書房/1575円)読了。

 ベテラン科学ライターが、1994年から現在まで『SFマガジン』に長期連載中の同名サイエンス・エッセイの、初単行本化。年月を経てデータ等が古くなったコラムに関しては、全面改稿されている。

 鹿野さんには、20年ほど前に一度だけ仕事だけお会いしたことがある。先方は覚えてないとは思うけど……。

 これは、素晴らしい本だった。最初から最後まで目からウロコが落ちまくる傑作サイエンス・エッセイだ。

 サイエンス・エッセイというと、旬の科学トピックを表面的に紹介する内容を想像するかもしれないが、本書はもっと深い。
 旬のネタを俎上に載せつつも、著者の思索は根源的・本質的な方向に自在に向かい、非常にスペキュラティブな内容になっている。「こんな目新しい研究が進められているんですよー。面白いでしょ?」で終わらず、そこから「文明とは、人間とは、科学とは何か?」という大きな問いを読者に突きつけるものになっているのだ。

 といっても、少しも難解ではない。「~だよね」「~と思うのねん」などというくだけた文体を用い、「反省しる」「ぬこ」などという2ちゃんねる用語まで駆使して、たいへん読みやすい本に仕上がっている(こうした文体を、著者は“権威的にならずに科学を語るため”に編み出したのだとか)。深いことが平明に語られているのだ。

 私の目からウロコを落とした一節を、一つ引用する。

 高速道路のインターチェンジは、独特の四つ葉のクローバー型をしているよね。これはクロソイド曲線という数理曲線なんだけど、なんでこんな形をしているか、ちょっと不思議じゃないだろうか。デザイン的には確かにきれいだけど、世界中のインターチェンジが、何で同じデザインを採用したんだろう。
 じつはこれ、自動車が一定の速度で走っているときに、ハンドルを一定の速度で回し続けると自ずと描かれる曲線なんだよね。だからインターチェンジがこの曲線になっていると、簡単なハンドル操作で減速せずにコースを変えられる。世界中にあるクローバー型が、こんな単純な法則できめられていたって知ったら、ちょっと感動しないかな。
 同じような感動を、中世のヨーロッパの錬金術師たちは味わっていたと思うのね。
 ただ、もちろん自然の全てが、そういう単純な数理で表わされるわけじゃない。それなのに、数理と神の秘密を結びつけちゃった西欧の人たちは、本末転倒して、数学的な美しさを、無理やりそうじゃない自然にも当てはめるようなこともしていった。
 たとえば黄金比の四角形こそがもっとも美しいなんてことが、今でも信じられていたりするけど、そんなことあるわけないよね。なにしろ、世界には別の比率の四角形はいくらでもあるんだから。でも、西欧の人たちは法則こそが神の理(ことわり)で正しいってことで、感受性までそちらにあわせちゃったわけだ。
 現代の技術が、自然を破壊して新しい物を作ってきたってことの背後には、そういう西欧の絶対的な法則優位のセンスってのが、あったのかもしれない。



 「サイエンス・エッセイ」の一語でくくってしまうことがためらわれるほど、扱うテーマは幅広い。
 たとえば、「科学と宗教」をテーマにした回もあれば、『風の谷のナウシカ』のマンガ版(アニメではなく)の素晴らしさを熱く語った回もある。日米の法意識(法律をどのようなものとして捉えるか)の差異を論じた回もあれば、環境問題を取り上げた回もある。科学の枠を超える広範なテーマが、科学の目線から論じられているのだ。

 とくに、環境問題を論じた数編は、すこぶる示唆に富むものだった。たとえば、こんな一節――。

 オレがイヤンな感じに思うのは、資源エネルギーの節約とか、環境汚染の排除ってのは、本来は合理性というか、損得で考えるべきものなのに、それがいつの間にか倫理問題にすり替えられていることだ。
(中略)
 環境問題に対する理解が、倫理の問題にすりかわってしまうと、もとの基準がおかしいことが解ったり、世界が変化してその規制の意味が無くなっても、臨機応変にやり方を変えることが難しくなる。
 残念ながら、すでに環境問題を倫理的発想で捉えるやり方は、メディアでも学校教育でも、大勢を占めている。人々はエコバッグという現代の免罪符を買うことで、温暖化の罪を購っているかんじ。



 なお、アマゾンの紹介ページを見ると本書がとり・みきとの共著のように思えてしまうが、とり・みきはカヴァー画と扉絵を担当しているだけなので、ご注意を。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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