ロバート・B・パーカー『勇気の季節』


勇気の季節 (ハヤカワ・ノヴェルズ)勇気の季節 (ハヤカワ・ノヴェルズ)
(2010/03/05)
ロバート・B・パーカー

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 ロバート・B・パーカー著、光野多恵子訳『勇気の季節』(早川書房/1995円)読了。
 今年1月に急逝したパーカーの「追悼出版」作(絶筆ではない。すでに本作の邦訳が終わり、刊行準備の最終段階に入っていたときに訃報が入ったという)。

 スペンサー・シリーズではなく、ヤング・アダルト向けの青春ミステリーである。
 アマゾンの内容紹介を引用する。

 15歳のテリーは母親と二人暮らし。同い年のガールフレンド、アビーとの仲は良好なものの、なかなか大人の関係に進展しないのが悩ましい。
 テリーがアビー以外で目下夢中なのは、黒人トレーナー、ジョージに教わるボクシングだ。まだ始めたばかりだけれど、ジョージのように強くなることを夢見てトレーニングに励んでいる。
 そんなある日、テリーと同じハイスクールに通うジェイソンという少年が浜辺で死体となって見つかった。学校はそれをステロイドの乱用からくる自殺だと説明した。だが、おとなしくてスポーツもしないジェイソンがそんなものを使っていたとは信じられない。テリーとアビー、そして仲間たちは学校と町にはびこる陰謀を探りはじめた…スペンサー・シリーズの巨匠が少年のまなざしを通じて熱く温かく描く、愛と友情、そして勇気の物語。



 主人公の少年が大人の男に鍛えられていくという設定が『初秋』(スペンサー・シリーズの名作)を彷彿とさせたので、読んでみた。

 ヤング・アダルト向けだから大人の読者にはいささか物足りない部分もあるが、それでもパーカーらしさは全開で、面白く読めた。
 スペンサーも元ボクサーという設定だったくらい、パーカーにとってボクシングは大の得意分野。ゆえに、本書でもボクシングのトレーニングの場面などがすこぶるいきいきとしている。

 黒人トレーナーのジョージが、スペンサーと相棒ホークを足して二で割ったようなキャラクターで、魅力的。ジョージがテリーにボクシングを教えるいくつかの場面で、ボクシングについて語る言葉が逐一人生の比喩になっているあたりも、よくできている。たとえば――。

「冷酷になるのは試合のときだけだ。だいじなのはそういうコントロールができることだ。冷酷さに振り回されるようでは、いいボクサーにはなれないし、まともな人間にもなれないのさ」



「おれがおまえにボクシングを教えてるのは、いいボクサーにするためじゃない」
「じゃあ、いったいなんのために?」テリーはそう聞いた。
「おれは、おまえにりっぱな人間になってほしいと思って教えてるんだ」
「だけど、ボクシングができるからといって、りっぱな人間とはかぎらない」
「そのとおり」
「自分をコントロールできるようになれば、りっぱな人間になれるってこと?」
「そういうことだ」
「そうすれば、自分のプランを捨てずにやることができる……」
「まずやらなきゃならんのは、プランを立てられるようになることだ。次に、そのプランにそってやっていくことをおぼえる。プランがまちがっていたことがわかったら、そのときは新しいプランをつくってやっていく」
「なんだか、人生の話をしてるみたいだな」



 こうした場面も、『初秋』でスペンサーが心を閉ざした少年を体を鍛えることで教育するシーンを彷彿とさせて、なんだか懐かしい。
 テリーのガールフレンドである聡明な美少女アビーも、まるでスーザン・シルヴァマン(スペンサーの恋人)の少女時代のようだし……。

 とはいえ、これが『初秋』級の名作かといえば、とてもそこまではいかない。私は『初秋』を少年時代に初めて読んで以来何度も読み返したが、本書は一回読めばもういい、という感じ。
 まあ、私自身が主人公と同じ15歳のころに読んでいたら、もっと好きになれただろうけど……。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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