堤未果『ルポ 貧困大国アメリカⅡ』

ルポ 貧困大国アメリカ II (岩波新書)ルポ 貧困大国アメリカ II (岩波新書)
(2010/01/21)
堤 未果

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 水・木と、企業取材で四国へ行っていた。
 水曜は今治で、「風で織るタオル」として知られる「池内タオル」の池内計司社長を取材。木曜は高松に移動して、「NDCジャパン」というアパレル企業の社長さんを取材。

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 行き帰りの飛行機で、堤未果著『ルポ 貧困大国アメリカⅡ』(岩波新書/756円)読了。
 ベストセラーとなり、新書大賞や日本エッセイストクラブ賞を受賞するなど、各界から絶賛を浴びたルポの続編である。

■関連エントリ→ 『ルポ 貧困大国アメリカ』レビュー

 正編はブッシュ政権下の最貧困層を取材して衝撃的だったが、この続編ではその後――オバマ政権発足後のアメリカが描かれている。

 「アメリカは、あの悪者ブッシュを追い出してオバマ大統領になったのに、なぜ状況は前よりも悪くなっているの?」
 それは今年になってから、最も多く耳にした質問だった(「あとがき」)



 オバマ後の貧困大国を取材した著者は、「前回取り上げた個々のテーマは新政権の下でむしろ悪化していた」ことに驚く。そして、「チェンジ」を求めてオバマ大統領を誕生させた人々の失望と絶望の肉声を、随所に刻みつけていく。
 それは、民主党政権誕生後の日本に、わずか半年で失望のため息が満ちていることと相似形だろう。

 もっとも、本書の眼目はオバマ政権批判にはない。著者は冷静に、フラットな視点から、アメリカのいまを活写していく。
 章立ては、次のようになっている。

第1章 公教育が借金地獄に変わる
第2章 崩壊する社会保障が高齢者と若者を襲う
第3章 医療改革vs.医産複合体
第4章 刑務所という名の巨大労働市場



 このうち第3章は、マイケル・ムーアが同テーマを扱った映画『シッコ』を観たあとでは、あまりインパクトがない。だが、第1章と第4章には強烈な印象を受けた。

 第1章は、「猛スピードで大学費用が膨れ上が」り、貧困層のみならず中間層の学生までが「学資ローン」の返済に苦しんでいる現状が描かれている。

 住宅ローンと学資ローン。今アメリカで多くの人々を苦しめているこの二つは、崩れゆくアメリカン・ドリームを表すコインの表と裏だ。
 中流階級にとって最も大きな夢であるマイホーム、そして誰にも開かれた教育という二つが、借金地獄という底なし沼となり、人々を飲みこむことになるとは、いったい誰が予想しただろう?



 アメリカといえば、奨学金制度が充実していて、優秀な学生は貧しくとも最高の大学教育を享受できる国、という印象があった。だが、その制度の根幹がもはやボロボロになっているようなのだ。

 さらに衝撃的なのが、第4章――。
 この章ではまず、連邦政府や州政府が財政難から囚人たちにまで過剰な負担を押しつけ、多くの囚人が借金漬けになっている現実が明かされる。

「刑務所が囚人たちに押し付ける負担範囲は拡大する一方です。囚人たちは用を足すときに使うトイレットペーパーや図書館の利用料、部屋代や食費、最低レベルの医療サービスなど、本来無料であるべき部分まで請求されています」



 囚人たちが、刑務所で新たに背負う(!)借金。それも一因となって広がってきたのが、囚人を「最安価労働力」として利用する「刑務所ビジネス」だ。

 アメリカ国内の投資家たちは、軍需産業やIT産業と並んでいま最も利益率が高く、人気急上昇の投資先として、刑務所ビジネスに注目している。



 たとえば、電話交換手という仕事は「第三世界へのアウトソーシング」が進んできたが、囚人たちに「国内アウトソーシング」すれば、「言語の壁」というネックは解消される。
 囚人の電話交換手は、「雇用保険は要らず、低賃金でも文句一つ言わないし、ストもやらなければ組合も作らない」。まさに「夢のような労働力」なのである。

 そして、アメリカは「総人口は世界の五%だが、囚人数は世界の二五%を占める『囚人大国』」。ゆえに、「最安価労働力」たる囚人はいくらでも供給可能なのだ。

 正編では「経済的徴兵制」(=徴兵制が廃止されたアメリカで、若者たちが貧しさから軍隊に入ることが実質的徴兵制として機能していること)の実態が最も衝撃的だったが、続編で最も衝撃的なのはこの「刑務所ビジネス」の実態だろう。

 その他、印象に残った一節をメモ。

 貧困層では数百万人の子どもたちが、治療しないままの虫歯を持っている。まだ小学生で歯がすっかり抜け落ちてしまっている子どもも少なくない。
 歯と貧困には深い関係がある。他の病気と違い、歯には自然治癒というものがないからだ。



 正編が具えていた美点は、この続編にもすべて受け継がれている。一読してのインパクトは正編より一段落ちる気がするが、それは読む側の「慣れ」の問題だろう。本書も一読に値する力作である。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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