黒羽幸宏『神待ち少女』

神待ち少女神待ち少女
(2010/02/16)
黒羽幸宏

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 黒羽幸宏著『神待ち少女』(双葉社/1260円)読了。

 「神待ち少女」とは、自宅に泊めてくれる見知らぬ男=「神」(「泊め男」ともいう)を探している家出少女のこと。なるほど、「神待ち」でググってみたら、大量の「神待ち掲示板」がヒットした。

 「なんだ、援助交際のことか」と思う人もあろうが、援交と「神待ち」は似て非なるものである。

 援交が売春であるのに対し、「神待ち」では少女は男に泊めてもらい、食事を食べさせてもらうだけで、性行為は介在しない(少なくともタテマエ上は)。
 また、援交の主舞台はラブホであろうが、「神待ち」では独身男性の自宅が主舞台となる。少女に一夜の宿と食事を提供し、その肉体的見返りを求めないからこそ、男たちは「神」と呼ばれるのだとか。

 そうだったのか。私も「神待ち」という言葉だけは知っていたが、援交との違いは本書で初めて知った。目からウロコ。

 本書は、『週刊プレイボーイ』などを舞台に活躍するライターが、「神待ち少女」たちと彼女らを泊める「神」たちを取材したノンフィクションである。
 著者は、15年におよぶライターとしてのキャリアの中で、もっぱらオンナがらみの軟派系記事を手がけてきた人だそうだ。1990年代の「援交ブーム」のころには、援交少女たちも多数取材したとか。

 本書には、そうしたキャリアが見事に活かされている。著者は、「神待ち少女」とかつての「援交少女」たちの違いを、自らの取材体験をふまえて語れる人なのだ。また、「神待ち少女」たちの心を開き、本音を引き出すにあたっても、豊富な取材経験がものを言ったに違いない。

 地の文にあまり魅力がないし、ときどき登場する著者の「自分語り」もウザいが、そうした瑕疵を補って余りある美点をもった作品だ。

 美点の第一は、登場する「神待ち少女」たちの話す言葉が、例外なくいきいきとしていること。よそいきの言葉、作り物の言葉ではなく、ビデオカメラで少女たちの話をそのまま記録したようなリアリティーがある。たとえば――。

 家出少女たちは、コインロッカーのことを「タンス」と呼ぶのだという。

「街中にタンス増えてるから宿無しにはありがたいよ。ほら、家出してたり、難民している女の子ってキャリーバック持ってるでしょ? あれは便利だけど、日雇い仕事とか見つかると不便なんだよね。(中略)だからね、仕事があるときはタンスに突っ込んでいくんだよ」



 ううむ、リアルだなあ。
 
 そして、私にとって「神待ち少女」の生態より衝撃的だったのは、彼女たちの口を通して、また著者の取材を通して浮かび上がる「神」たちの無惨な実像である。
 ある「神待ち少女」は、これまでに出会った「神」たちの共通項を、次のように語る。

「素人童貞か挙動不審な男ばかりだよ。まともに目を見て話せない感じだもん。たまにまともな神もいるけど、自分に自信がないのが私ですらわかるくらいだから」
(中略)
「だめ~な人生を送ってきた感じ。運がなくって、不幸で、がんばる術も知らなければ、がんばる力もない。ずっとうだつの上がらない人生を送ってきたんだろうなってわかる。そんな人ばっかだよ」



「泣きながら私に抱きついてくる人もいる。でも、勃起しているの。結局はエロ系なんだって思うとちょっとむかつくけど、拒否すればそれ以上は求めてこないから」

 

 著者は「どういう人生を歩むと、弱った未成年の女の子を自宅に泊め、あげくのはてに下半身を膨らませて、泣いて甘えるようになるのだろうか」とあきれている。いや、まったくだ。

 要するに「神待ち」とは、援交ブームから15年を経て生まれた、さらに歪んだ援交の形――“「社会的弱者」同士による最下層の援交”なのである。
 「神」たちは、あたりまえだが善意から家出少女を泊めるわけではない(笑)。下心満々で、そのくせいろんな意味で弱いから、「神待ち少女」たちにすら見下され、いいようにあしらわれるケースが多いのだろう。

 「少女たちも男たちも、日本人はどんどん劣化しているのかもしれない」と、暗澹たる読後感を残す衝撃のノンフィクション。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。56歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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