サイモン・シンほか『代替医療のトリック』

代替医療のトリック代替医療のトリック
(2010/01)
サイモン シンエツァート エルンスト

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 サイモン・シン&エツァート・エルンスト著、青木薫訳『代替医療のトリック』(新潮社/2520円)読了。

 世界的ベストセラーとなった『フェルマーの最終定理』などの作品で知られる科学ジャーナリストが、代表的な代替医療に科学のメスを入れた大著。
 共著者のエルンストは、代替医療分野における世界初の大学教授となった人。代替医療を含む医療の現場に長く身を置き、どの代替医療にどの程度効果があるのかを長年研究してきた人物なのだ。

 全6章のうちの4つの章では、ホメオパシー、鍼、カイロプラクティック、ハーブ療法にそれぞれ的を絞り、各一章を割いてその効果を検証していく。
 それ以外のさまざまな代替医療(アロマテラピー、指圧、リフレクソロジー、磁気療法から風水に至るまで)については、巻末に「代替医療便覧」なるコーナーがもうけられ、一つの療法につき見開き2ページで簡潔に判定を下している。

 著者たちの語り口は、この手の本にありがちな下品な告発調ではなく、ウイットに富んだ冷静なもの。医療史を鳥瞰しての興味深い逸話が随所で紹介されるなど、読者の興味を途切れさせない工夫も満載で、上質の科学読み物としても楽しめる。

 たとえば、第1章では「科学的根拠に基づく医療(Evidence-Based Medicine)」がなぜ大事なのかが解説されるのだが、印象的なエピソードが巧みに盛り込まれている。第1章だけでも、並の新書一冊分くらいの内容がつめ込んである感じ。
 ジョージ・ワシントンは、ただの風邪を治療するために何度も瀉血(かつては万病を治す治療法として広く行われていた)を施され、「一日と経たないうちに血液の半分を失っ」て死んだ……というエピソードは衝撃的だ。

 また、鍼治療について検証した章では、2003年にWHOが鍼の治療効果を認めた報告書が、じつは「衝撃的なまでの虚偽誇張」を含むものだったことが明かされる。「WHOの鍼調査委員会には、鍼に批判的な人物はただの一人も含まれず、鍼の効果を信じる人たちだけで構成されていた」のだという。

 WHOは、これまで通常医療に関しては立派な取り組みをしてきたが、こと代替医療に関するかぎりは、真実よりも政治的公正を重んじているようにみえる。その背景として、まず第一に、鍼を批判すれば、中国や、古代の叡智や、東洋の文化全般を批判したと受け取られかねないという事情がある。



 邦題(※)からもわかるとおり、著者たちは検証のすえ、ほとんどの代替医療の科学的根拠を否定している。みるからに怪しげなホメオパシーについては「まあ、そうだろうな」という感じだが、鍼やカイロプラクティックまでが全否定されるのにはちょっとビックリ。

※ちなみに、原題は「Trick or Treatment?」。もちろん、ハロウィンの合言葉「トリック・オア・トリート(Trick or Treat)」=「お菓子くれなきゃイタズラするぞ」のもじり。この原題も秀逸だ。

 著者たちが代替医療のいいかげんさをバッサバッサと斬り捨てていくさまは、痛快で面白い。
 ただ、読んでいてちょっと複雑な気分にもなった。というのも、じつは私は、ゴーストライターの仕事で代替医療関係の本も数冊書いたことがあるからだ(私はこれまでにゴーストで100冊以上の本を手がけている)。

 もっとも、だからといってそれらの代替医療を信奉しているわけでもないが、代替医療の関係者も直接知っているし、彼らが“救った”患者たちも知っているから、著者の主張に諸手を挙げて賛同する気にはなれないのである。
 「科学ですべてがわかるわけではないし、そもそも、現代医学ってそれほどご立派なものかい?」と、著者たちの「上から目線」に反発を覚えるところもある。

 だがそれでも、科学啓蒙書としての質の高さは認めざるを得ない。
 著者たちは、個々の代替医療を批判するのみならず、その背後にある構造にまで迫っている。代替医療は、いまや全世界で数兆円規模の市場に成長している。そこに群がるたくさんの人々がすべて無知蒙昧であるわけではなく、代替医療の“盛況”にはそれなりの背景要因があるのだ。

 代替医療は、「自然」で、「伝統的」で、「全体論的」な医療へのアプローチだといわれる。代替医療を擁護する人たちは、代替医療を選択する大きな理由としてこれら三つの中心原理をくり返し挙げるが、実は良くできたマーケティング戦略にすぎないことが容易に示される。代替医療の三つの中心原理は、誰もが陥りやすい罠なのだ。



 そして、たとえば代替医療の「自然だからよい」という主張については、次のように皮肉ってみせる。

 自然なものが良いとはかぎらず、自然でないから悪いともいえない。自然界には、ヒ素、コブラの毒、放射性元素、エボラ・ウイルスなどが存在しているが、ワクチン、眼鏡、人工股関節などはすべて人間が作ったものだ。



 今後、代替医療について考察する際の基本文献になり得る一冊。
 代替医療の検証を入り口に、「医療とは何か?」「科学とは何か?」という大テーマにまで読者を誘う奥深い本でもある。

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色々検索しておりまして、

東洋の叡智で検索していたらここにたどり着きました。

とても素敵で、興味深い記事を書かれていますね。

こちらは、東洋と西洋の叡智を広げる活動をしています。


よろしければ遊びに来て下さいね。

http://www.yumenomiya.com/

  • 2010-07-03│23:50 |
  • 田伏 哲也 URL
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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