増田美智子『福田君を殺して何になる』


福田君を殺して何になる福田君を殺して何になる
(2009/10/01)
増田 美智子

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 増田美智子著『福田君を殺して何になる――光市母子殺害事件の陥穽』(インシデンツ/1575円)読了。

 弁護団による出版差し止め請求などをめぐる一連の報道から、著者の売名のためのキワモノ本を想像していた。実際に読んでみたら、意外にまっとうで真摯な内容だった。

 著者は、「福田君」(=事件を起こした元少年)本人はもとより、その父親と継母、元同級生たち、弁護団、被害者遺族の本村氏など、さまざまな関係者に次々と取材をかける。そして、取材拒否にあってもめげずにアタックをくり返す。この敢闘精神は大したものだ。

 とくに、「福田君」が拘置所から友人に出した「不謹慎な手紙」(例の、「被害者さんのことですやろ?」うんぬんの手紙)について、手紙を受け取った友人に直接取材して舞台裏を解き明かしている点は、本書のスクープといってよいと思う。

 ただし、本書でつぶさに再現されている著者の取材過程を見ると、相手の心情への配慮に欠ける傍若無人ぶりにいささかウンザリさせられる。
 たとえば、著者が「福田君」の実家にアポなし取材をかけ、一人で留守番していた9歳の異母弟に「お兄ちゃんの写真見せて」と頼む場面がある。のちに「福田君」の父親がそのことで著者に怒るのだが、これは怒りを買って当然だろう。

 また、取材時のやりとりをテープ起こしのようにダラダラと書き連ねた部分が多く、完成したノンフィクション作品というより、たんなる取材メモに近い印象を受ける。
 本書について、ノンフィクション作家の奥野修司が「インタビューの結果を読者に放り投げている、レベルの低い本」と酷評していたが、その評価にもある程度うなずける。

 ただし、表現の稚拙さ、取材手法の問題点はあっても、突撃取材で得た関係者の膨大な発言自体がそれぞれ興味深く、一読の価値はある本だ。
 少なくとも、週刊誌等の報道では人間離れしたモンスターとしてしか描かれない「福田君」について、本書には一個の人間としての像がくっきりと刻みつけられている。
 といっても、それは読んでいて胸の悪くなるような人間像ではあるのだが……。

 何より気持ち悪いのは、「福田君」が(手紙や面会を通じて)取材に応じていたのは著者が若い女性だからだということが、行間から察せられるところ。
 著者が拘置所に送った最初の手紙に対し、「福田君」が書いた返事には次のような一節がある。

 心配してくれてありがと。外でデートとかしたかったね♡ なんて言ってみてもいい?
(中略)
 ぼくも美智子さんのこと知りたいなー。今日はお手紙のお礼までに。ありがとね 美智子さん。今日はゆっくり眠れそうです。次も書くね♡



 最初の「美智子さん」の上には、「みっちゃん」とルビが振ってある。この時点では面識のない相手に対して「みっちゃん」て……。

 福田君が女性に甘えようとする行為を、弁護団では「抱きつき行為」と呼んで、警戒している。マスコミ関係者の間では、福田君が女性と接したがることはすでに有名で、報道が過熱していた差し戻し控訴審の審理中など、あえて女性記者を選んで福田君に接触させていたという。(本書140ページ)

   

 で、妙齢の女性ライターである著者にも「福田君」は心を開くのだが、弁護団と支援者団体の横槍によって(著者は明言を避けているが、そう推察できる)、途中から面会できなくなるのだった。

 
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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